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[第11回] よい総務は社員や自分のストレスとも上手に付き合う

2018年3月23日更新

元総務部長が語る「総務の仕事とは」

[第11回] よい総務は社員や自分のストレスとも上手に付き合う

[河西知一氏(特定社会保険労務士)]

ストレスチェックだけで社員のメンタルヘルスを守れるか?

平成27年12月にストレスチェック制度が導入されてから、1年以上が経ちました。いまのところ従業員数50人未満の事業場については努力義務となっていますが、おそらくこの原稿を読まれている多くの方が、一度はストレスチェックを受けたのではないでしょうか。

すでに本連載(第8回 総務は社員の〝健康リスク〟に目をつぶってはいけない)でも述べたとおり、社員の心身の健康を守ることは総務の大事な役目のひとつです。
ストレスチェックの義務化に伴い、新たな制度を作成・運営するために多大な労力を費やしたという総務担当者もおられることでしょう。

しかし、ストレスチェック制度の導入だけで社員のメンタルヘルスを守ることはできません。

社員のメンタルヘルスを守るには、まず総務が率先して心の健康問題に対する理解を深めることが不可欠です。そして、自分で心の健康を守るセルフケア研修や、上司が部下のメンタルヘルスを見守るラインケアの仕組みを整備することも必要です。
そうした仕組みづくりや社員教育があって初めて、ストレスチェック制度も機能すると筆者は考えます。

「法令に則った仕組みを作ること」=「社員のメンタルヘルスケアに取り組むこと」ではない、ということをぜひご理解ください。

もともと日本の企業は、福利厚生の一環として、社員のメンタルヘルスケアに取り組んできました。しかし、いまや社員のメンタルヘルスケアは福利厚生というより、企業を守る「リスクマネジメント」の一環として、重要な経営課題となっています。

情報管理の司令塔として、法的リスクを察知するアンテナとして、総務は会社のメンタルヘルスケア対策の中心的役割を担わなければなりません。

総務担当者を襲うメンタル不調に要注意!

厚生労働省は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定)のなかで、メンタルヘルスケアの基本的考え方を以下のように示しています。

■メンタルヘルスケアの推進に当たっての留意事項

  1. 心の健康問題の特性
    心の健康についてはその評価は容易ではなく、さらに問題の発生過程には個人差が大きいため、そのプロセスの把握が困難。また、すべての労働者が心の問題を抱える可能性があるにも関わらず、心の問題を抱える労働者に対して、健康問題以外の観点から評価が行われる傾向が強い。
  2. 労働者の個人情報の保護への配慮
    労働者が安心してメンタルヘルスケアに参加できるためには、健康情報を含む労働者の個人情報の保護及び労働者の意思の尊重に留意することが重要。
  3. 人事労務管理との関係
    労働者の心の健康は、体の健康に比較し、職場配置、人事異動、職場の組織等の人事労務管理と密接に関係する要因による影響が大きい。そのため、人事労務管理と密接に連携することが重要。
  4. 家庭・個人生活等の職場以外の問題
    心の健康問題は、職場外のストレス要因や個人の要因等の影響を受けている場合も多く、これらは複雑に関係し、相互に影響しあう場合が多くある。

(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」より抜粋)

以上からもわかるように、心の健康問題は非常に個人差が大きく、仕事内容や職場の人間関係に加え、個人的要因が複雑に関係してくるため、なかなか把握しにくいものです。
そこがメンタルヘルス問題の非常にデリケートで難しいところでもあります。

社員のメンタルヘルスケアの責任者として、総務には寄せられる情報をただ待つのではなく、積極的にメンタル不調者の存在に気を配る姿勢が求められます。

そしてもうひとつ、総務がメンタルヘルスケアに取り組む際に、ぜひ留意していただきたいことがあります。それは、総務自身がメンタル不調に巻き込まれない、ということです。
じつは総務担当者がストレスにより体調を崩すケースは少なくありません。真面目で責任感が強い人ほど、メンタルヘルスに不調をきたした社員に感情移入してしまい、自らを追い込んでしまう傾向があるように思います。

そうした意味でも、総務担当者は自分自身の問題としてストレスへの理解を深め、社員のメンタルヘルスケアに取り組んでいただきたいと思います。

会社のなかに「悩みを話す=離す」仕組みを作る

メンタルヘルスケアの基本は、なんといってもメンタル不調にならない・させないことです。そのためには、

「ストレスと上手に付き合う」

これに尽きると考えます。では、ストレスと上手に付き合うには、具体的にどうするのがいいか?
一番いいのは、「悩みを話せる相手を作る」こと。そのひとつの手段として筆者が提案するのは、「メンター制度」の導入です。

悩みを話すことは、悩みを「離す」ことだともいいます。
たいていの悩みごとは、誰かに話すことで、自ずと問題解決への道筋が見えてくるものです。悩みを吐き出すことで気分がすっきりし、自分のおかれた状況を客観視できるようになり、それが頭のなかを整理することにつながるからです。

メンター制度とは、上司以外の社員がメンター(助言者)として、後輩社員をサポートする制度のことです。新入社員や昇進や異動等でストレスを抱えやすい状況にある社員に、一定の期間メンターをつけることで、ひとりで不安やプレッシャーを抱え込むことを防ぐことが期待できます。

メンターとなる社員は、「聞いた話は絶対に他言しない」ことを約束したうえで、仕事に限らず相談者の悩みごとを何でも聞きます。このとき、

「話を遮らない・逆らわない(意見しない)・その場で結論を出さない」

ことが大事です。

オープン・クエッション(はい・いいえで答えられない質問)を心がけ、相談者が自分で考えるように促すのがポイントです。
一緒に解決策を考えたり、その場で結論を出したりするのはメンターの役目ではありません。仮に、パワハラが疑われるなど会社として対応が必要なときは、相談者の承諾を得て、社内の相談窓口(総務など)に報告するようにします。
総務担当者にとっても、メンター制度を利用する、あるいはメンターとして訓練を受けることは、心の健康を保つうえで大いに役立つはずです。

そして、それでも誰かが心の健康を損なってしまったときのために、安心して会社に相談できる体制を用意することも大切です。

「メンタル不調にならない・させない」
「たとえメンタル不調になっても大丈夫」

この2つを柱に、総務自身も含めて皆が安心して働ける職場環境を整えていただきたいと思います。
執筆者プロフィール

河西知一氏(特定社会保険労務士)
大手外資系企業などの管理職を経て、平成7年社会保険労務士として独立後、平成11年4月にトムズ・コンサルタント株式会社を設立。労務管理・賃金制度改定等のコンサルティング実績多数。その他銀行系総研のビジネスセミナーでも明快な講義で絶大な人気を誇る。著書に『モンスター社員への対応策』(泉文堂)など。
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