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[第12回] 本当に必要な「働き方改革」を考える

2018年3月30日更新

元総務部長が語る「総務の仕事とは」

[第12回] 本当に必要な「働き方改革」を考える

[河西知一氏(特定社会保険労務士)]

日本の会社の生産性はなぜ低いのか?

政府が掲げる「働き方改革」において、「長時間労働の是正」が大きなテーマとなっています。
過剰な長時間労働によって若い女性社員が過労自殺した事件では、電通が強制捜査を受けるという異例の事態に発展しました。物々しい雰囲気のなか、東京労働局の担当者らが家宅捜索に踏み込む様子が大きく報じられるのを見て、衝撃を受けた企業関係者も多いでしょう。

いまや違法な長時間労働を放置することが、企業にとって重大なリスクであるのは間違いありません。
ですが、電通ショックによるものなのか、最近はあまりにも労働時間の抑制にばかり目がいっているように感じられます。そんな状況に違和感を覚えるのは筆者だけでしょうか。

総務担当者として、行政の動向にアンテナを立てておくことはもちろん必要ですが、一方で、法律や行政の動向に振り回されない、という姿勢も大事ではないかと考えます。
むしろ、行政に先んじて「我が社の働き方改革」を実現する気概を持っていただきたいのです。

先進国のなかで、日本の労働生産性の低さは以前から指摘されているところです。2016年12月に発表された『労働生産性の国際比較2016年版』(日本生産性本部)によれば、日本の就業者1人当たりの労働生産性はOECD加盟国35か国中22位。統計で遡れる1970年以来ずっと、主要先進7か国で最低という状況が続いています。

そもそも日本の労働生産性は、なぜそんなにも低いのでしょう?いまこそ、日本中の総務担当者が、自分の会社の労働生産性を上げるために知恵を絞るべきです。

バブルの崩壊以降、終身雇用制は崩れ、雇用形態が多様化するなど、日本人の労働環境は大きく変化しています。ところが、いまだに多くの経営者や管理職の方が、

「辛くてもやるのが仕事だ」
「上司は部下を熱血指導する」
「残業や休日出勤も辞さずに働くのが当たり前」

といった労働観をもっているようです。
高度成長期ならいざ知らず、いまのような時代に上司のこうした考えは、部下を追いつめかねません。また、このような労働観が日本の会社の生産性の向上を損ねてきた可能性はないでしょうか。

「仕事って何だろう?」「労働って何だろう?」

「働き方改革」というからには、まず、そこをとことん考えてみる必要があります。そのうえで総務担当者は、「会社は社員にどんな働き方を望むか」ということを考え抜いていただきたいと思います。
そうして初めて「我が社の働き方改革」の方向性が見えてくるはずです。

総務担当者は、賃金構造や雇用形態も含めて、自社が目指す「生産性の高い働き方」を提案すべきです。労働時間の抑制にとどまらず、長期計画で、会社全体の「働き方改革」に取り組むときだと思います。

「効率化の追究」に落とし穴が潜む

ところで、「生産性の向上」というと、多くの方が「業務の効率化」をイメージされるのではないでしょうか。もちろん、長過ぎる会議、省略可能な社内手続き、不必要な長時間労働などはどんどん削減して、効率化を図らなければなりません。

ですが、何でもかんでも効率化すれば生産性が上がるかというと、それは違うと筆者は考えています。

コンピュータ技術等の発達により、20年前に比べると会社における仕事の効率は劇的に向上しているはずです。製造現場では機械化が進み、多くの職人の仕事がエンジニアの仕事に代わりました。会社にはイントラネットが構築され、情報の共有化も進んでいます。パソコンを使ってできる単純作業を請け負う、早くて安いアウトソーシング業者も増えました。

ここで考えなければならないことは、それらを活用することによって、個々の社員の労働の質がどれだけ向上したか、です。むしろ仕事の内容が平準化し、職種によっては個人のもつ能力や専門性が軽んじられる傾向が生じてはいないでしょうか。

向こう10年から20年の間に、多くの仕事がコンピュータにとって代わられるという論文が話題になったことがありました。日本の労働人口の49%が、将来的に人工知能に代替できる可能性が高いというレポートを発表したシンクタンクもあります。
しかし、単に人がやっていた仕事が人工知能にとって代わられるだけであれば、人員の削減にはなっても、それによって労働の質を高めることはできません。

たとえコンピュータ技術がどんなに進歩しようとも、ふだんの何気ない仕事のなかにだって、絶対に人工知能では代わることができないものがある、というのが筆者の考えです。
たとえば、社内コミュニケーションの活性化です。人工知能が社員同士のコミュニケーションを活性化し、チーム力を高めようとしてくれるでしょうか。また、仕事の改善はどうでしょう。人工知能が知恵を出し、自社にあった仕事のやり方を創意工夫してくれるでしょうか。

労働の質を高め、会社の生産性を向上させたいと考えたとき、最後に行き着くのは、結局のところ“人”です。
社員1人ひとりが自分の能力を高め、経営者は社員と一体となってチーム力で仕事の成果を追究する——。生産性の向上を図るうえで、これに勝る方法はないと考えます。

こうした“人づくり・組織づくり”がベースにあってこそ、イントラネット等を使った業務の効率化も生きてくるのだと思うのです。

総務は人に優しくありたい

組織や社員個人の能力・生産性の高め方については、様々なやり方があるでしょう。反対に、社員の能力を伸ばさない、会社の生産性を損なうやり方には、いくつかの共通点があるように思います。

その典型的なものが、上司や先輩社員による「レッテル貼り」。組織のなかで「ダメ社員」のレッテルを貼られてしまった人は、本来の能力に関わらず、まず伸びなくなります。
しかも一度貼られたレッテルを修正することは、非常に困難です。

「こいつはダメ社員だ」という先入観をもった上司は、「どうせデキないだろう」と思いながら部下に仕事を与え、部下がデキないのを確認して、自分が下した評価に納得しようとするものです。先入観が上司の目を曇らせ、部下のもっている長所が見えなくなってしまうのです。

しかし、長所・短所のまったくない人などいるでしょうか。それぞれが長所を活かし、適材適所で能力を発揮することが、組織(チーム)で仕事をする強みではないでしょうか。
マイナス評価のレッテルを貼られた社員がだんだんと自信をなくし、仕事への意欲をなくしてしまうのは当然のことです。そのような「レッテル貼り」は、会社の生産性を損ない、働く社員の人生をも不幸せにしてしまう無益な行為でしかありません。

残念ながら組織というのは、悪いことほどはびこりやすい性質をもっているようです。無責任なレッテル貼り、プラス評価よりマイナス評価、部門や属性による一部社員の“ムラ”化……。
総務担当者は、そうした会社の悪しき慣習に巻き込まれないでください。先入観によるマイナス評価やムラ化した社員同士の馴れ合いとは一線を画すべきです。
客観的な目で、どんなに遠い支店でも、どんなに小さな部署であっても、常に「総務が見ていますよ」というシグナルを送っていてほしいと思います。

最近の会社は、人への優しさが少し足りなくなっているような気がしています。
しかし、繰り返しになりますが、会社が成長していくためには、人にしかできないことがたくさんあるのです。

「働き方改革」を機に、私たちはもう一度“人”に立ち返って、“人の力”を信じる会社づくりに取り組むべきではないでしょうか。

仕事は厳しいものです。だからこそ、会社は、人が人に優しくあってほしいと思います。
総務は五か年計画で、いまよりも会社を明るくしてください。
総務が中心になって、人が人に優しい会社に、日本中の会社を建て直していただきたいと願っています。
執筆者プロフィール

河西知一氏(特定社会保険労務士)
大手外資系企業などの管理職を経て、平成7年社会保険労務士として独立後、平成11年4月にトムズ・コンサルタント株式会社を設立。労務管理・賃金制度改定等のコンサルティング実績多数。その他銀行系総研のビジネスセミナーでも明快な講義で絶大な人気を誇る。著書に『モンスター社員への対応策』(泉文堂)など。
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