しかし、海外企業と取引する場合には、思いもよらなかったトラブルにつながるおそれがあります。それでは、どのようなトラブルが想定されるでしょうか。
【ケース1】
契約書や仕様書を作成しないまま発注書のみで取引を始め、J社は部品xを継続的に購入していましたが、ある時、10か月前に納入された物に、品質不良が存在することが判明しました。
J社は、V社に対し、代替品の納入と損害賠償を求めましたが、V社は、「J社が主張する点は品質不良とはいえないし、J社での検収にも合格している。今さら10か月前に納入した物について言われても、そのような責任を負う合意もしていないし、応じられない」として、いっさい取り合いませんでした。
【ケース2】
J社は、「日本向けの商品yが、米国での知的財産権を侵害していないかは保証できない」とU社の担当者に伝えており、メールで承諾も得ていました。
取引を開始するにあたり、U社から、英文の契約書の案を受領しました。J社では、英語ができる従業員に翻訳させてみたものの、難解であったため、結局よくわからないまま契約を締結してしまいました。
米国で商品yを販売したところ、別の米国企業A社から特許権侵害を理由に損害賠償請求を受け、U社は多額の支払を余儀なくされます。そこでJ社に対し、「A社への支払について補償を請求する。カリフォルニア州裁判所に訴訟を提起することも辞さない」という通知を行いました。
J社が慌てて弁護士に相談すると、契約書に、「第三者の知的財産権侵害を理由にU社が損害を被った場合には、J社が一切の損害を補償する」「カリフォルニア州裁判所を管轄裁判所とする」という内容や、「完全合意条項」(※)が存在することが判明しました。
※完全合意条項・・・契約書に記載された内容がすべてであり、それ以前の合意は効力を有しないことを示した条項(詳しくは次回、ご紹介します)
【ケース3】
J社は、市販の英文契約書の雛形を使用し、代金支払期日は製品の検収完了後、管轄裁判所は東京地裁と定め、契約書を作成して、契約を締結しました。
その後、J社は、注文通りに製品zを製造し、C社に納入したはずなのですが、C社は、納入された製品が仕様を満たしていないと主張して、代金の支払を拒みました。しかし、C社が主張する内容は合意された仕様に含まれていません。もしかすると本当は、C社の経営状態があまり良くないための言いがかりかもしれません。
J社は、代金の支払を求める訴訟を提起することも視野に、弁護士に相談しました。
しかし、弁護士からは、「東京地裁に訴訟を提起しても、中国では強制執行できないおそれがあることなどから、意味をなさない可能性も十分にある」と言われてしまいました。
ケース1~3におけるトラブルの原因
ケース1:文化・商習慣の違い等があるにもかかわらず、部品xの仕様を書面で合意せず、相手側が負う責任の内容や期間も定めなかったこと
ケース2:「完全合意条項」の意味や、海外の裁判所での訴訟のリスクを意識しないまま、契約書を作成したこと
ケース3:契約書において、代金不払に対処する方法を確保しておらず、異国間での紛争解決方法も適切に選択していなかったこと