税務調査を行なう調査官はさまざまで、職位や経験によって調査の内容が左右されることもあるかもしれません。
本コラムでは、税務調査にやって来た調査官がどれほどのキャリアなのか、気になる調査官の力量をその「職格」から見ていくことにします。
調査官の職格
税務調査を担当する調査官の経験値は、名刺に記された肩書きからも確認することができます。その序列は次のようになります。特別国税調査官
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統括国税調査官
↓
上席国税調査官
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国税調査官
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財務事務官
●特別国税調査官
税務署管内の大規模な法人を担当し、「特官」と呼ばれています。「特官部門」という正式な部門があるわけではありませんが、独自の部門を持ち、そこに所属する特官以外の調査官などは「特官付」と呼ばれ、特官をサポートします。さらに大きな規模の法人になると、特官の中でも幹部クラスが調査を担当します。これらの特官は職員名簿の上では署長、副署長の次に名を連ね、副署長と同列の立場にあります。
特官は、実際に税務調査の現場に向かい実地調査を行ないながら、通常は自らの決裁権で調査をまとめていきます。穏やかなタイプが多く、調査対象が大法人ということもあって経費の妥当性云々といった細かい指摘はほとんどありません。
●統括国税調査官
企業の税務調査は、特官による調査以外は法人課税の一般部門が担当することになります。「統括」あるいは「統官」とも呼ばれる統括国税調査官は、各一般部門のトップとしてそれぞれに配置されます。統括の下位に当たる上席国税調査官(次項参照)のすべてがここまで昇進できるとは限らず、このポストに就けるかどうかは能力次第ということになります。
特官とは異なり、税務調査に登場することはそれほど多くはなく、部内の調査をまとめる立場にあるため、通常は署内で調査を指揮していきます。調査に当たる場合には、部下の模範となる必要があるためなのか、厳格な態度で調査を進めていきます。
最終的な調査結果はともあれ、調査中はそこで発覚した事案に対し妥協点を模索するといったスタンスを取ることはほとんどありません。
●上席国税調査官
国税調査官(次項参照)の上司に当たる「上席」の多くは経験豊かなベテラン調査官で、実地調査における第一線での活躍が期待され、現場の責任者にもなります。とはいえ、上席以下の調査官には決裁権がなく、上司である統括が決裁する判断材料を揃えるため、実地調査が終了しても問い合わせが続き、税務調査が長引く場合もあります。
調査を担当する業種がある程度絞られているのか、調査対象の業界の慣習に詳しく、的を射た指摘が目立ちます。
●国税調査官
国税専門官での採用(大卒程度)の場合、「研修→実務(税務署)→研修」を経て約4年で国税調査官に任用されます。20代後半~30代前半まではこのポジションで経験を積み、上席へと昇進していきます。年齢的に若く、向上心が強いため、調査対象の税目全般にわたって広く浅く調査を進めていく傾向にあります。統括に報告する必要があるということを謳い文句に、不明点は細かく質問し、時間の許す限り全力で取引内容の確認を行なっていきます。
上席と同様に実地調査が終了した後も問い合わせが多くなりがちですが、その割にはレスポンスが遅く、税務調査が完了するまでに時間がかかることがあります。
●財務事務官
そもそも国税職員になるには、まずは国家公務員の採用試験にパスする必要があります。合格後は税務大学校で研修を受けた後に各管内の税務署に配属され、この期間は「事務官」として調査等に当たります。国税調査官になるまでには、国税専門官採用者(大卒採用)は4年、税務職員採用者(高卒採用)は最低でも8年を要し、その間は上席や国税調査官とともに調査に同行します。より高度な教育を目的として統括と事務官、あるいは特官付となって税務調査を実施することもあります。
経験が浅いため、調査中は売上高のいわゆる「期ズレ」を中心に黙々と確認を進めていき、時間次第で総勘定元帳から経費の妥当性を検証していきます。調査中に事務官から直接質問されることはそれほど多くはありません。
世間でよく耳にする税務調査でのいわゆる「お土産」は昔の話で、特段問題がなければ何事もなく調査は終了します。
本当に何もなかったのか、それとも時間切れに終わってしまったのか。これは調査官の経験値、力量の差によるところが大きいのかもしれませんが、その一つの目安が「調査官の職格」ということになるでしょう。