会社の実務としては、入社時に家族等を保証人とする身元保証書を提出させています。
今回、2020年4月に民法が改正されることに伴い、この身元保証書の取扱いが変わります。
労働基準法の賠償予定の禁止
労働基準法では、損害賠償の予定を禁止する規定があります。この規定は、労働契約期間の途中で退職する場合に違約金を払わせる定めをしたり、事前に賠償額を定めたりすることを禁じるものです。これらは、従業員の退職の自由を不当に奪うこと、現実に損害が生じたか否かにかかわらず事前に賠償額を定めることを禁じたものです。実際に従業員の責任により発生した損害について、賠償を求めること自体を禁止するものではありません。
採用時に提出する身元保証書
身元保証書では、会社が従業員を採用するにあたり、主にその従業員の家族等を相手として、従業員の行為により会社が被った損害を賠償することを約束する身元保証契約を取り交わしています。昨今では、身元保証人が高齢の両親であることや、外国籍の従業員の場合、身元保証人となる者がいないケースもあり、身元保証書を求めないとする会社もあります。
身元保証に関する法律
上述のような身元保証契約は、責任範囲が広く身元保証人の責任が重くなるため、身元保証に関する法律により、一定の規制(期間を定めない場合の有効期間は3年、期間を定めた場合でも5年等)があります。しかし、保証の限度額に関する規制はないことから、入社時等に提出を求める身元保証書では、「従業員が会社に損害を与えた場合で従業員が賠償できないときは、身元保証人が連帯して賠償する責任を負う」等、具体的な賠償額が定められていない内容が一般的となっています。
民法の改正に伴い必要な対応
今回、民法が改正され、個人の根保証(現在から将来にわたる包括的な保証)では、保証契約で限度額(極度額)の定めが必要になります。身元保証に関する法律には、限度額の規定はないものの、民法の改正規定が適用されると解されます。
改正民法は2020年4月1日の施行です。そのため、2020年4月1日以降に締結する身元保証書には、身元保証人の賠償責任について、「○○円」等と明確にその限度額を定めることが求められます。
2020年3月31日までに締結された身元保証書は、改正前の民法が適用されるため、すでに提出されている身元保証書を取り直す必要はありません。
身元保証人の立場になれば、具体的な賠償額が示された身元保証をするか否かも懸念されます。この機会に身元保証書の必要性、提出の有無について検討されてはいかがでしょうか。