本コラムでは、前回に引き続き、債権譲渡に関する改正を踏まえた債務者側の対応について紹介します。
債権譲渡が行なわれた場合の弁済の方法
債務者にとっては、改正法下において、実際に譲渡制限特約が付された債権が譲渡されてしまった場合、3通りの弁済方法が考えられます。なお、前回と同様、以下の図に即して説明します。 前回紹介したとおり、改正法下では、譲渡制限特約が付された債権の譲渡であっても有効ですが、第三者Cが譲渡制限特約の存在について悪意(知っている)または重過失(知らないことについて重大な過失がある)である場合には、債権者Aに対して弁済することも可能です。(1) 第1の選択肢
債務者Bとしては、1つ目の選択肢として、旧債権者である債権者Aに対して弁済することが考えられます。ただし、第三者Cが悪意または重過失であることが前提となります。
(2) 第2の選択肢
債権譲渡は有効である以上、2つ目の選択肢として、新債権者である第三者Cに対して弁済することが考えられます。ただし、債務者Bにとって見知らぬ第三者Cとやり取りを行なわなければならないという点は、デメリットとなります。
(3) 第3の選択肢
前回紹介したとおり、譲渡制限特約が付された金銭債権が譲渡された場合には、当然に供託を行なうことが可能となりました。
そのため、3つ目の選択肢として、供託所に供託を行なうことによって弁済することが考えられます。デメリットは、専ら、供託手続きを行なう手間となります。
以上の3通りの弁済方法は、それぞれ一長一短がありますので、具体的な状況に応じて選択していく必要があります。
弁済方法に関しては、供託を行なうことが当然に可能になったという点が、現行法下と改正法下で最も異なる点であり、改正法下においては、供託を積極的に利用していくことも考えられます。
債権者Aとの契約を解除することは可能か
債務者Bとしては、譲渡制限特約が付された債権が譲渡された場合、譲渡制限特約が存在するにもかかわらず債権者Aが債権譲渡を行なったことは契約違反であるとして、債権者Aとの契約を解除することも考えられます。しかし、譲渡制限特約が付された債権の譲渡であっても有効であると定められている改正法の下では、譲渡制限特約に反して債権譲渡を行なったことのみをもって契約を解除することは、無効であると判断される可能性があります(筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務(2018年)164頁以下)。
そのため、改正法の下では、譲渡制限特約が付された債権が譲渡されたことをもって債権者Aとの契約を解除するかどうかは、慎重な判断が必要となります。
債権譲渡の効力の変更によって弁済の相手が変わるケース
改正法では、譲渡制限特約が付された債権譲渡の効力が変更されたものの、前回紹介したとおり、第三者Cが悪意または重過失である場合については別段の規定が設けられているという点は現行法と類似しています。そのため、一見すると、債権譲渡の効力の変更の点は、結論の違いをもたらさないようにもみえます。
しかし、改正法下では、第三者Cが悪意または重過失である場合も、債権譲渡の効力自体は有効であるため、たとえば、以下の図のとおり、債権者Aが、
①悪意の(譲渡制限特約の存在を知っている)第三者Cに対して債権Xを譲渡した後に、
②善意無重過失の(譲渡制限特約を知らず、そのことについて重大な過失がない)第三者Dに対して同じ債権Xを譲渡した場合
については、現行法下では第三者Dが債権Xを取得するのに対し、改正法下では第三者Cが債権Xを取得することになります。【現行法が適用された場合】 【改正法が適用された場合】 なお、
①債権者Aが、悪意の第三者Cに対して債権Xを譲渡した後に、
②Aに対する債権者である第三者Eが、同じ債権Xを差し押さえた場合
についても、上記のような二重に譲渡された場合に類似する状況となりますので、同様の帰結となります。債務者Bとしては、このような場合、現行法下と改正法下では、弁済を行なうべき相手が異なることになりますので注意が必要です。
経過措置
債権譲渡に関する規定については、改正法が2020年4月1日に施行された後も、施行日前に譲渡の原因である法律行為(例:債権の売買契約や譲渡担保設定契約)が行なわれている場合には現行法が適用され、施行日後に譲渡の原因である法律行為が行なわれた場合には改正法が適用されると定められています。