本コラムでは、これまでも重要な改正点を個別に取り上げてきましたが、今回は、保証に関する改正点について紹介します。
特に、個人根保証の極度額に関する改正は、大きな影響があり得る点ですので、少なくともその点については確認・対応しておいたほうがよいでしょう。
はじめに
たとえば、借主Bが貸主Aから借入れを行ない、その返済についてCが保証人になったとします。この場合、保証契約は、貸主であるAと、保証人Cとの間の契約であり、Aを「債権者」、Bを「主債務者」、BがAに対して負う債務を「主債務」といいます。
改正の概要
保証に関する主要な改正点は、以下の3点です。・保証人に対する情報提供義務の新設
・個人根保証に関する改正
・事業のための借入れに対する個人保証の特則(経営者等による保証を除き、事前に公正証書の作成が必要)の新設
個人根保証の極度額に関する改正
「借主Bが貸主Aから行なういつからいつまでの借入れ」、「賃貸借契約に基づき賃借人Bが負う一切の債務」、「取引基本契約に基づき買主Bが売主Aに対して負う一切の債務」など、一定の範囲に属する不特定の債務を主債務とする保証を「根保証」といいます。根保証には、保証の上限金額が設けられることがあり、その上限金額を「極度額」といいます。
従来から、個人保証人保護の観点から、借入れ等を主債務として、個人が保証人となる根保証契約については、書面等で極度額が設けられていなければ、根保証契約は無効であると定められていました。
改正民法では、対象が拡大され、個人根保証一般について、極度額が設けられていなければ、根保証契約は無効となりました。
そのため、改正民法が適用される個人根保証契約、すなわち、2020年4月1日以降に新たに締結または更新される個人根保証契約については、極度額を定めることが必要となりました。この極度額は、契約締結時点において、具体的に金額が確定している定め方をしておく必要があります。
なお、会社が従業員から入社時に提出を受ける身元保証書にも、この改正民法の規定が適用されると解されます。詳細は、企業実務サポートクラブの別コラム(労務News&Topics「2020年4月から身元保証書に限度額の記載が必要に」)に譲ります。
情報提供義務
改正民法では、保証人に対する情報提供義務として、下表の①~③の3つが新設されました。
①保証契約締結時の主債務者の情報提供義務 |
②主債務者の履行状況に関する債権者の情報提供義務 |
③主債務者の期限の利益喪失時の債権者の情報提供義務 |
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義務者 | 主債務者 | 債権者 | 債権者 |
時点 | 保証契約締結時 | 保証人の請求時 | 主債務者の期限の利益喪失を知った時から2か月以内 |
保証人の範囲 | 事業のために負担する債務について、主債務者から委託を受けた保証人(個人のみ) | 主債務者から委託を受けた保証人(個人・法人) | 保証人(個人のみ、主債務者からの委託の有無を問わない) |
情報の内容 | 主債務者の財産・収支・負債の状況等 | 主債務の不履行の有無、残額、そのうち弁済期到来額 | 主債務者の期限の利益喪失 |
違反時の効果 | 債権者が悪意または有過失である場合に、保証人による保証契約の取消しが可能 | 規定なし(損害賠償請求等が想定される) | 通知時までの遅延損害金相当額について、保証の履行の請求不可 |
自社が債権者である場合、各情報提供義務に関して、以下のとおり対応する必要があります。
・①に関して
主債務者の義務であるものの、主債務者が義務を履行していないことを債権者が知っていた(悪意)または知ることができた(有過失)場合には、保証人から保証契約を取り消されてしまう可能性があります。
そのため、主債務者から保証人に対して情報提供が行なわれていることを確認するとともに、契約書中でも、主債務者や保証人から、その旨確認を得ておくことが考えられます。
・②に関して
保証人から、主債務者の履行状況について問い合わせを受けた場合には、それに応じる必要があります。
・③に関して
主債務者が期限の利益を喪失した(直ちに一括弁済しなければならなくなった)場合には、保証人からの問い合わせの有無にかかわらず、主債務者の期限の利益の喪失について、保証人に通知しておく必要があります。