特に売掛債権は、回収が困難となる可能性が高いものの、得意先からの入金が危ぶまれる状況だけでは、税務上はこれを貸倒処理することはできません。
また、中小企業に対してのみ損金算入が認められる貸倒引当金についても、得意先の状況次第で繰入れできる金額に制限があります。
本コラムでは、貸倒引当金と貸倒損失との違いと、それぞれの内容について確認します。
貸倒引当金と貸倒損失との違い
貸倒引当金とは、法人が有する金銭債権に対する貸倒れによる損失の見込額をいい、申告を要件に損金経理することで、一定の中小法人等に限り、繰入限度額に達するまでの金額を損金算入することができます。また、貸倒損失は、法人の規模を問わず、その有する金銭債権について、得意先の資力喪失などにより実際に回収不能の事実が生じた場合に、その貸倒れとなった日の属する事業年度に損金算入されます。
貸倒引当金は、あくまでも将来の貸倒れによる損失の見積計上であって、実際の貸倒れの事実を根拠に損金算入される貸倒損失とは異なります。
貸倒引当金の区分
税務上、貸倒引当金の計上には、「一括評価金銭債権」または「個別評価金銭債権」を繰り入れる方法があり、以下の<計算式>により計算された金額を限度に損金算入できます。(1)一括評価金銭債権の繰入れ
法人が有する金銭債権のうち、(2)に該当する金銭債権その他一定の金銭債権を除いた合計額に、一定の率を乗じて計算します。<計算式>
繰入限度額
簿価の合計額
または法定繰入率
(2)個別評価金銭債権の繰入れ
各得意先のそれぞれの事由に応じて回収不能見込額を算定し、これを繰入限度額とします。計算方法は、以下の4つに区分されます。①更生計画認可、再生計画認可または特別清算に係る協定の認可の決定等により、弁済が猶予され、または賦払により弁済されることとなった場合
<計算式>見込額
(取立て等の見込額を除く)
②債務超過の状態が相当期間(おおよそ1年以上)継続し、事業に好転の見通しがないこと、災害等により多大な損害が生じたことなどによって、貸金等の一部につき取立て等の見込みがないと認められる場合
<計算式>見込額
③更生手続開始の申立、再生手続開始の申立、破産手続開始の申立もしくは特別清算手続開始の申立、または手形交換所により取引停止処分等の事実が生じた場合
<計算式>④外国の政府その他公的債務者の長期にわたる債務の履行遅滞により、その経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難と認められる場合
<計算式>上記③と同じ
貸倒損失の区分
税務上、貸倒損失は、以下の3つに区分されます。この場合、消費税も合わせて貸倒れに係る税額の調整を行ないます。(1)法律上の貸倒れ
金銭債権が法的な手続によって切り捨てられた場合には、法律上、その債権は消滅することになります。これらは税務上、当然に損金算入されるものであるため、損金経理による処理をしなかった場合には、申告調整によって損金算入する必要があります。法律上の貸倒れは、次のような事実が生じた場合をいいます。
②特別清算に係る協定の認可の決定があったこと
③私的整理による関係者の協議決定
④債務超過が相当期間継続する得意先への書面による債務免除
なお、破産債権が回収不能となった場合は、法律上の貸倒れに該当しますが、破産手続が終結まで進めば、通知書等によってその事実の確認ができます。しかし、手続廃止となった場合には、通知等が発せられないことが多いため、貸倒処理のタイミングについては注意が必要です。
また、④の債務免除については、書面による通知が必要です。文書が保管され、得意先の受取りや送達日付が確認できる内容証明郵便などの利用が一般的です。
(2)事実上の貸倒れ
得意先の資産状況や支払能力等から判断し、債権の全額を回収できないことが明らかとなった場合、損金経理を要件として損金算入することができます。あくまでも金銭債権の全額が貸倒れの対象となるため、一部が回収不能であることを理由に、その一部を損金経理しても、損金算入は認められません。また、担保物がある場合、税務上はこれを処分するまで貸倒れとして損金経理することはできません。
(3)形式上の貸倒れ
金銭債権のうち売掛債権に限り、継続的に取引をしていた得意先の資産状況や支払能力等の悪化を理由に取引を停止した場合で、その時または最後の弁済もしくは最後の支払期限の時から1年以上経過したときは、損金経理を要件に損金算入することができます。なお、この場合には、備忘価額として1円を残し、貸倒処理をします。
税務上、売掛債権の回収が単に遅れている状況だけでは、貸倒損失として損金算入することはできません。
法律上の貸倒れ以外によって貸倒損失処理をする場合には、得意先の財務状況の調査結果や回収努力の経緯、取締役会の議事録などを整備しておくことも大切です。