立会人型サービスの広まり
従来、電子署名といえば、当事者自身が、あらかじめ認証局(電子証明書を発行する機関)に登録を行ない、認証局から電子証明書(印鑑証明書に相当)の発行を受け、その電子証明書にかかる電子署名(印鑑に相当)を付す、「当事者型」が一般的でした。これに対して、近時、当事者は電子証明書の発行を受ける必要がなく、電子契約サービスを提供する事業者が、当事者の指示を受けて立会人として電子署名を付す、「立会人型」(クラウド型)のサービスが現われ、利便性から、こちらが広まっています。
従来、電子署名に関しては、当事者型を念頭に、電子署名法が定められ、一定の要件を満たす電子署名については、紙の契約書への押印と同様に、成立の真正を推定する効果が認められていました(同法3条)。
しかし、当事者自身は電子署名を付さない立会人型の場合に、成立の真正の推定が認められるかどうかは、明らかではありませんでした。
「電子署名に関するQ&A」の意義
前回紹介した「電子署名に関するQ&A」では、上記の立会人型を、「利用者の指示に基づき、サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行なう電子契約サービス」と表現したうえで、本人でなければ行なうことができないこと(「固有性」)など、一定の条件を満たす立会人型サービスについては、成立の真正の推定が認められることが明らかにされました。「固有性」の要件のうち、利用者とサービス提供事業者の間で行なわれるプロセスについては、2要素による認証(例:メールアドレスとパスワードの入力に加えて、スマートフォンへSMS送信されたワンタイムパスワードの入力)が行なわれている場合には、十分な水準の固有性が満たされ得るとされています(以上、「電子署名法3条に関するQ&A」Q2)。
立会人型サービスであっても、紙の契約書への押印と同様に、成立の真正を推定する効果が認められ得るとされた点は、立会人型サービスを利用しやすくするものであるといえます。
電子契約を導入するメリット
電子契約の代表的なメリットとしては、以下の点が挙げられます。・契約締結時の印刷・郵送等に要する時間・費用の削減
・電子契約には印紙税が課税されないこと
・契約書の保管に要していたスペースの削減
・締結済みの契約書の検索性の向上
電子契約を導入する際の留意点
他方、電子契約を導入する際には、いくつか留意点も存在します。・サービスの選定
サービスを選定する際には、料金や機能面以外にも、考慮すべき点があります。セキュリティ | 本人確認の方法などは、なりすましや改ざんなどを防ぐためには重要であり、前述の成立の真正の推定にもかかわる点となります。 |
サービス提供事業者が利用する電子署名・タイムスタンプの信頼性・有効期限 | 利用される電子署名やタイムスタンプ(ある時刻に文書が存在し、それ以降改ざんされていないことを証明するもの)の信頼性や、それらの有効期限の長さなども考慮に入れる必要があります。 |
サービス提供事業者の事業の継続性 | 過去に作成した文書の成立の真正が問題になった場合など、サービス提供事業者の協力を得る必要がある場面もあり得るため、サービス提供事業者の事業の継続性も考慮に入れる必要があります。 |
・法令上、紙であることが要求される文書
法令上、紙であることが要求される文書がいくつか存在しますので、電子契約を導入する際には留意が必要です。たとえば、下請法に基づき親事業者が交付する「3条書面」(下請法3条1項)、建設工事の請負契約(建設業法19条1項)、割賦販売業者の書面交付義務(割賦販売法4条)は、原則として紙であること必要があり、あらかじめ承諾を得るなどの一定の要件を満たした場合に限り、電子データで代替可能です。
また、たとえば、定期借地契約・定期借家契約(借地借家法22条、38条1項)、宅地建物取引業者の重要事項説明書の交付義務(宅建業法35条)は、紙であることが必要であり、電子データでの代替は認められていません。
税法上の保存義務との関係
税法上、保存義務を負う契約書などの文書について、紙ではなく、電子データで保存する場合には、電子帳簿保存法に定められた一定の要件を満たす必要があります。具体的には次のとおりです。
①認定タイムスタンプの付与または事務処理規程の整備などの真実性確保のための措置
②システム概要書の備付け(ただし、自社開発のプログラムの場合のみ)
③見読性の確保
④検索機能の確保
・国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/index.htm