改正法は、主として上場企業・大企業に影響のある内容が多いものの、会社補償・役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備など、非上場の中小企業にも関係する内容が一部含まれています。
本コラムでは、非上場の中小企業を念頭に、改正の概要を紹介します。
【おもな改正項目一覧】
区分 | 項目 |
■株主総会に関する規律の見直し |
・株主総会資料の電子提供制度の創設 ・株主提案権の濫用的な行使の制限 |
■取締役等に関する規律の見直し |
・取締役の報酬に関する規律の見直し ・会社補償・役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備 ・業務執行の社外取締役への委託 ・社外取締役を置くことの義務付け |
■その他の改正点 |
・社債に関する規律の見直し ・株式交付制度の創設 ・議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由の明文化 ・会社の支店の所在地における登記の廃止 ・成年被後見人等についての取締役等の欠格条項の削除 |
株主総会に関する規律の見直し
・株主総会資料の電子提供制度の創設
株主総会の招集にあたって、株主総会資料(株主総会参考書類、計算書類、事業報告など)を株主に提供する際に、株主総会資料をウェブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面で通知する方法によることができる制度が新設されます。なお、この改正点については、公布から3年6か月以内の日から施行されるため、施行はもう少し先となります。上場会社等にとっては影響の大きい改正点ですが、株主数が限られていることの多い非上場の中小企業については、利用するメリットはそれほどない場合が多いと思われます。非公開会社(全株式が譲渡制限株式である会社)であれば、通常は、1週間前までに株主総会招集通知を発すれば足りるところ、電子提供制度を利用する場合には、これが2週間前までとなり、株主総会資料のウェブサイトへの掲載も3週間前までには行なう必要があることなどにも注意が必要です。
・株主提案権の濫用的な行使の制限
近年、1人の株主が膨大な数の議案を提案する事例があることを受けて、1人の株主が事前に提案できる議案の数が10個までに制限されます。なお、株主総会当日に提案される動議については、この制限の対象ではありません。
取締役等に関する規律の見直し
・取締役の報酬に関する規律の見直し
取締役の報酬として株式等を付与する場合の株主総会の決議事項に、株式等の数の上限等が追加されます。上場会社等については、その他に、取締役の報酬に関して、個人別の報酬の内容が株主総会で決定されていない場合に、取締役会はその決定方針を定めなければならない、などの改正が行なわれていますが、非上場の中小企業には特に影響はありません。
・会社補償・役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備
役員等に対して責任の追及が行なわれた場合の費用や賠償金を会社が補償する契約を締結する際、取締役会決議が必要であるなど手続が明確化されました。なお、役員等の故意または重大な過失による責任などについては補償できないことも定められています。また、会社が役員等を被保険者とする役員等賠償責任保険に加入する際も、取締役会決議が必要であるなど手続が明確化されました。
非上場の中小企業の場合も、役員等の人材を確保するために、改正法に定められた手続に従って、会社補償や役員等賠償責任保険契約を利用することも考えられます。
・業務執行の社外取締役への委託
社外取締役がいる場合は、その他の取締役と会社が利益相反状況にある際に、その都度の取締役会決議によって、会社の業務執行を社外取締役に委託することが可能となります。たとえば、親子会社間で取引を行なう場面などが想定されています。・社外取締役を置くことの義務付け
上場会社等について、社外取締役の設置が義務付けられますが、非上場の中小企業には特に影響はありません。その他の改正点
・社債に関する規律の見直し
社債の発行にあたって社債管理者の設置が不要である場合に、社債管理補助者を設置できる制度が新設されるなど、社債に関する規律の見直しも行なわれています。社債を発行していない会社であれば、ほとんど影響はない改正点です。・株式交付制度の創設
現行法上、自己の株式を対価として他の会社を子会社化する場合、株式交換という制度がありますが、完全子会社化する場合でなければ利用できません。そこで、改正法により、完全子会社化する場合ではなくても利用できる、株式交付という制度が新設されます。他の会社を子会社化する場合の選択肢が増えることになります。
・議決権行使書面の閲覧謄写請求の拒絶事由の明文化
株主総会において書面による議決権の行使が行なわれた場合の議決権行使書面に対する、株主からの閲覧または謄写の請求について、一定の場合には、会社が請求を拒絶できることが明文化されました。・会社の支店の所在地における登記の廃止
現行法上、会社が支店を設けた場合には、支店の所在地における登記が必要となりますが、改正法により、不要となります。なお、この改正点については、公布から3年6か月以内の日から施行されるため、施行はもう少し先となります。・成年被後見人等についての取締役等の欠格条項の削除
現行法に存在する、成年被後見人(判断能力がないとして成年後見開始決定を受けた者)等は取締役等になれないという規定が、改正法により、削除されました。