現在では、労働契約法旧20条は削除され、いわゆる「同一労働同一賃金」の実現に向けて、短時間労働者の労働条件についても併せた規定として、パートタイム・有期雇用労働法8条へ移行していますが、これらの最高裁判決は、同法に関しても参考になりますので、複数回に分けて概要を紹介します。
最高裁判決が持つ意味(一般論)
今回の5つの最高裁判決を紹介する前に、そもそも一般論として最高裁判決がどのような意味を持つのかを説明します。民事訴訟において、裁判所は、原告(訴訟を提起した者)から被告(訴訟を提起された者)に対する請求(「~円を支払え」など)について、証拠等から事実関係を認定したうえで、認定された事実に対して法令を解釈・適用することによって、原告の請求が認められるかどうかを判断します。最高裁では、原則として、事実の認定ではなく、専ら法令の解釈・適用に関する争いが審理されるため、最高裁判決には、法令の解釈・適用に関する最高裁の判断が含まれることになります。
最高裁判決によって示された法令の解釈・適用は、地裁や高裁などの下級審に対しても拘束力を有し、今後の下級審においても同様の法令の解釈・適用が行なわれることになります。
最高裁判決には、法令に関するより一般的な解釈を示したものもあれば、当該訴訟の事実関係を前提とした場合の法令の適用について判断したにとどまるものもあります。後者の事例判決である場合には、前提となる事実関係が異なれば、判断も異なる可能性はありますが、判断の傾向は読み取ることができます。今回の5つの最高裁判決も、後者の事例判決であるといえます。
5つの最高裁判決の概要
今回の5つの最高裁判決にかかる事件では、賞与、退職金、各種手当・休暇等の各労働条件について、正社員との不合理な相違があるとして、損害賠償等を請求する訴訟が提起されました。いずれの事件においても、下級審では、さまざまな労働条件について、正社員との不合理な相違の有無が争われていましたが、最高裁では、そのうちの一部の労働条件のみが判断の対象となりました。5つの最高裁判決の概要を一覧表に整理すると、以下のとおりです。 なお、最高裁の判決では、判決の理由とは別に、各裁判官が個別意見を付すことがありますが、メトロコマース事件では、補足意見(判決と同じ立場から補足する意見)と反対意見(判決の結論に反対する意見)が付されています。
前述のとおり、5つの最高裁判決は、いずれも事例判決ですので、賞与・退職金の相違は常に不合理な相違には当たらない、扶養手当・夏期冬期休暇等の相違は常に不合理な相違に当たる、というわけではなく、前提となる事実関係が異なれば、判断も異なる可能性はあります。
現に、大阪医科薬科大学事件では、私傷病欠勤中の賃金の有無について、不合理な相違ではないと判断されているのに対し、日本郵便(東京)事件では、これと同等である有給の病気休暇の有無について、不合理な相違であると判断されています。
もっとも、5つの最高裁判決において述べられている判決の理由を読むと、大きく分類すると、(i)賞与・退職金、(ii)私傷病欠勤中の賃金/有給の病気休暇・扶養手当、(iii)年末年始勤務手当・年始期間の勤務に対する祝日給・夏期冬期休暇では、やや異なる判断枠組みの下で判断されており、それにともなって、不合理な相違であると判断されやすいかどうかも異なっているということはいえます。
次回以降、5つの最高裁判決において(i)~(iii)がそれぞれどのような枠組みで判断されているのか、各事件の判断のポイントなどを紹介するとともに、実務上の留意点についても紹介します。
【参考】労働契約法旧20条
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。