前回の緊急事態宣言によって一時中断していた税務調査は、昨年10月より徐々に再開し始めていましたが、今般の緊急事態宣言の発出により、予定していた税務調査は延期またはキャンセルとなってきています。
そんななか、令和元年(2019年)7月から令和2年(2020年)6月までの間に実施された法人税等の税務調査の事績が国税庁より公表されました。この期間の後半は、新型コロナウイルス感染症の拡大による調査休止の影響を受けているといえるでしょう。
本コラムでは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた令和元事務年度における法人税等の調査事績の概要について確認します。
実地による調査事績の概要
令和2年(2020年)11月に国税庁より公表された『令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要』(調査事績の概要)のなかでは、「あらゆる資料情報と提出された申告書等の分析・検討を行った結果、大口・悪質な不正計算等が想定される法人など、調査必要度の高い法人」に対し実施した、法人税・消費税に係る実地調査の状況が報告されています(図1)。<図1 実地調査の状況>
事務年度等 | 平30 | 令元 | |
前年対比 | |||
実地調査件数 |
千件 99 |
千件 76 |
% 77.1 |
申告漏れ所得金額 |
億円 13,813 |
億円 7,802 |
% 56.5 |
追徴税額(法人税・消費税) |
億円 2,743 |
億円 2,367 |
% 86.3 |
(『令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要』より)
図1のとおり、令和元事務年度における実地調査件数は、対前事務年度で約23%減少しています。この減少は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって実地での税務調査が予定どおりに実施できなかった影響が大きいと考えられます。ただ、実地調査件数の減少幅ほど追徴税額が減少しているわけではないことに着目すれば、調査の必要度が高い法人を的確に絞り込みながら調査が実施されたことがうかがえます。
簡易な接触事績の概要
申告内容に軽微な誤りなどが想定されるような場合には、税務署から書面や電話によって申告内容の照会が行なわれる場合があります。このような、いわゆる「お尋ね」と呼ばれる問い合わせは「簡易な接触」と位置づけられ、時には税務署への来署を依頼し、納税者に対して自発的な申告内容の見直しを求めるケースもあります。
こうした簡易な接触による法人税・消費税に係る事績の状況についても、調査事績の概要のなかで報告されています(図2)。
<図2 簡易な接触の状況>
事務年度等 | 平30 | 令元 | |
前年対比 | |||
簡易な接触件数 |
千件 43 |
千件 44 |
% 102.4 |
申告漏れ所得金額 |
億円 44 |
億円 42 |
% 96.6 |
追徴税額(法人税・消費税) |
億円 40 |
億円 27 |
% 68.7 |
(『令和元事務年度 法人税等の調査事績の概要』より)
コロナ禍を背景に実地調査が減少するなか、これに代わり簡易な接触による確認の件数が増加するかと思われました。しかし、図2のとおり、接触件数は微増にとどまり、追徴税額は大きく減少しています。追徴税額の減少は、恐らく納税者の来署による聞き取り調査等が十分に実施できなかったことが要因ではないかと推測されます。
やはり、新型コロナウイルス感染症の拡大は、税務調査全体に大きな影響を及ぼしているようです。
調査事績の概要のなかでは、データベースに蓄積された法人税等の申告内容や、事業者から提出された支払調書をはじめとする各種資料情報を分析することで、システムを活用しながら税務調査の対象の選定等を行なっていることが記されています。
さらに、税務職員が独自に収集した情報等を検討することで、悪質な納税者等を的確に抽出するとともに、適切な調査体制を編成して厳正な実地調査を実施することが警告されています。
当然、実地調査のすべてが悪質な不正計算等の発覚によるものではありません。事前通知や税務調査開始のタイミングで、調査官から「今回の調査は通常の調査です」という言葉を耳にします。これは、実地調査の対象として選定された理由が、税務署側で重大な不正や誤り等を事前に把握したものばかりではないということでしょう。