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同一労働同一賃金に関する近時の5つの最高裁判決について(第3回)

2021年3月15日更新

サポートクラブ 法務News&Topics

同一労働同一賃金に関する近時の5つの最高裁判決について(第3回)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]
2020年10月に出された、労働契約法旧20条に関する5つの最高裁判決に関して、今回は、前回紹介した(i)賞与・退職金以外の点に関する判断について紹介します。

(ii)私傷病欠勤・病気休暇中の賃金/扶養手当に関する判断

・私傷病欠勤・病気休暇中の賃金

私傷病欠勤・病気休暇中の賃金について判断した2つの判決は、これらの支給目的について、正職員・正社員は長期継続就労が期待されることから、その生活保障を図るとともに、継続的な雇用を確保することにあると述べています。
そのうえで、大阪医科薬科大学事件では、アルバイト職員については無給とすることは、不合理ではないと判断されました。①アルバイト職員は、契約期間が1年以内であり、更新される場合はあるものの、長期雇用を予定していないこと、②原告も、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまることなどが考慮されています。
これに対し、日本郵便(東京)事件では、私傷病による病気休暇の日数に相違を設けることはともかく、契約社員については無給とすることは、不合理であると判断されました。契約社員も、原告ら(いずれも10年程度の勤続期間)のように更新を繰り返して勤務する者が存在するなど、相応に継続的な勤務が見込まれていることが重視されています。

・扶養手当

日本郵便(大阪)事件では、扶養手当の支給目的についても、正社員は長期継続就労が期待されることから、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、継続的な雇用を確保することにあると述べられています。
そのうえで、契約社員には扶養手当を支給しないことは、不合理であると判断されました。同様に、契約社員も、更新を繰り返して勤務する者が存在するなど、相応に継続的な勤務が見込まれていることが重視されています。

・小括

以上のとおり、(ii)の類型では、相応に継続的な勤務が見込まれているかどうかが重要な考慮要素となっており、それによって判断が分かれています。
「相応に継続的な勤務」がどの程度であるかについては、勤続5年が一つの目安になっているものと思われます。ただし、あくまでも「見込まれている」かどうかの問題であり、現にそれだけの勤続期間があることが必須というわけではありません。
会社としては、長期にわたって雇用する予定のない就業形態の方については、そのことが明らかとなるよう、たとえば、更新の上限を定め、そのとおりに運用することが有用です。

(iii)年末年始勤務手当/年始期間の勤務に対する祝日給/夏期冬期休暇に関する判断

・年末年始勤務手当

日本郵便(東京)事件・日本郵便(大阪)事件では、正社員には、年末年始に勤務した際に、業務の内容や難度等にかかわらず、実際に勤務したことを要件として、一律の金額の年末年始勤務手当が支給されていました。
両判決は、その支給目的を、郵便業務の最繁忙期における勤務の特殊性に対する対価であると判断し、その趣旨は契約社員にも妥当するとして、契約社員には年末年始勤務手当を支給しないことは、不合理であると判断しました。

・年始期間の勤務に対する祝日給

日本郵便(大阪)事件では、正社員には、祝日ではない1月2日・3日の勤務についても、35%の祝日割増賃金が支給されていました。
同判決は、その支給目的を、最繁忙期であるために年始期間に勤務したことに対する代償であると判断し、その趣旨は契約社員にも妥当するとして、契約社員には祝日給を支給しないことは、不合理であると判断しました。

・夏期冬期休暇

日本郵便にかかる3事件では、正社員に与えられていた夏期冬期休暇の目的について、労働から離れる機会を与えることにより心身の回復を図ることにあると述べられています。
そのうえで、繁忙期に限定された短期間の勤務ではない契約社員にも、その趣旨は妥当するとして、契約社員には夏期冬期休暇を与えないことは、不合理であると判断しました。

・小括

以上のとおり、(iii)の類型では、(ii)の類型とは異なり、相応に継続的な勤務が見込まれているかどうかは考慮されていません。継続的な勤務が見込まれる正社員であるから優遇している、という説明は認められないことに留意する必要があります。
なお、今回の5判決において判断された以外の労働条件については、(ii)と(iii)のいずれの類型に該当するかは必ずしも明らかではないものの、主として生活保障を目的とする労働条件が、(ii)の類型に該当するものと思われます。

最後に

3回にわたって紹介した5判決によって、同一労働同一賃金に関する判断枠組みは、一定程度明らかになりました。もっとも、第1回で紹介したとおり、これらの判決は事例判決であるといえますので、同一労働同一賃金に関する対応を検討するにあたっては、今後の事件における判断も注視していくことが有用です。
執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、平成21年に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設し約10年。『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)等著作、講演多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。


坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)入所。「判例から学ぼう!管理職に求められるハラスメント対策」(エヌ・ジェイ出版販売株式会社)等講演、著作多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

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