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発信者情報開示請求に関する法改正(第1回)

2021年6月15日更新

サポートクラブ 法務News&Topics

発信者情報開示請求に関する法改正(第1回)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]
インターネット上の掲示板やSNS等において、名誉毀損、著作権侵害等に該当する投稿が行なわれた場合、被害者は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」)で定められている「発信者情報開示請求」によって、投稿者を特定できる場合があります。
この発信者情報開示請求をより使いやすくするため、2021年4月21日、プロバイダ責任制限法の改正法が成立しました。改正法は、公布日である2021年4月28日から1年6か月以内に施行されます。
そこで、本コラムでは、2回に分けて、そもそも名誉毀損等に該当する投稿が行なわれた場合に被害者がとることのできる手段について紹介した後、今回の改正点を説明します。

コンテンツプロバイダに対する削除請求

名誉毀損等に該当する投稿が行なわれた場合、被害者としては、掲示板の管理者やSNS事業者等(以下「コンテンツプロバイダ」)に対し、投稿の削除を求めることが考えられます。
この場合に、コンテンツプロバイダが任意に削除に応じやすいよう、プロバイダ責任制限法3条2項では、①プロバイダが違法な投稿であると信じる相当な理由がある場合、または、②プロバイダが投稿者(以下「発信者」)に対して削除に同意するかどうか照会して、7日を経過しても発信者から削除に同意しない旨の申出がなかった場合、などの一定の要件を満たせば、プロバイダは、投稿を削除したことについて、発信者に責任を負わないことが定められています。

仮に、コンテンツプロバイダが削除に応じない場合、被害者としては、名誉権侵害等に基づく差止請求として、コンテンツプロバイダに対し、投稿の削除を求める仮処分を裁判所に申し立てることが考えられます。

発信者情報開示請求 → 発信者に対する損害賠償請求

被害者としては、発信者に対し、損害賠償を請求することも考えられます。もっとも、そのためには、誰が発信者であるかを特定する必要があります。
そこで、プロバイダ責任制限法4条では、被害者は、①権利を侵害されたことが明らかであり、かつ、②開示を受ける正当な理由がある場合には、プロバイダに対し、発信者の住所・氏名等の情報(「発信者情報」)の開示を請求できることが定められています。このような請求が、発信者情報開示請求です。

もっとも、コンテンツプロバイダは、発信者の住所・氏名等の情報を有していないことが大半です。
他方、発信者による投稿は、発信者がインターネットに接続するために契約しているプロバイダ(以下「アクセスプロバイダ」)のサーバを経由して行なわれますが、アクセスプロバイダは、通常、発信者の住所・氏名等の情報を有しています。

そのため、被害者としては、投稿に使用されたIPアドレス(※)等のログ情報から、投稿の通信経路をたどって、発信者を特定することになります。
すなわち、被害者は、①まず、コンテンツプロバイダに対し、投稿に使用されたIPアドレス等のログ情報の開示を請求します。②次に、当該IPアドレス等から、発信者が経由したアクセスプロバイダを特定し、アクセスプロバイダに対し、発信者の住所・氏名等の開示を請求します。③そのうえで、発信者に対し、損害賠償を請求することになります。

※インターネットに接続された機器に割り当てられる文字列のことで、インターネット上の住所や電話番号のようなもの。インターネットに接続する都度、アクセスプロバイダから利用者に対して異なるIPアドレスが割り当てられることが一般的です。

このうち、①コンテンツプロバイダに対するIPアドレス等の開示請求については、任意で開示を受けられることは少ないです。他方で、投稿に使用されたIPアドレス等のログ情報は、コンテンツプロバイダにおいて、短期間しか保存されていないことが多いため、訴訟によって開示を請求しても、訴訟が終わる前にログ情報が消去されてしまう可能性が高いです。そのため、暫定的な保全の手続きであり、迅速に決定が下される仮処分の申立てを裁判所に行なうことによって、開示を請求することが一般的です。
②アクセスプロバイダに対する住所・氏名等の開示請求については、裁判所に訴訟を提起することが一般的です。

以上のような発信者情報開示請求については、発信者を特定するまでに2段階も裁判所の手続きを経なければならず、費用・時間の面で負担が大きいなど、いくつかの課題が指摘されています。
そこで、このような課題を解消していくため、総務省において、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」が開催され、2020年12月22日、「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」が公表されました。

・「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000724725.pdf  

今回の法改正は、この最終とりまとめを踏まえて行なわれたものです。次回、改正の概要を紹介します。
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執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、平成21年に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設し約10年。『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)等著作、講演多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。


坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)入所。「判例から学ぼう!管理職に求められるハラスメント対策」(エヌ・ジェイ出版販売株式会社)等講演、著作多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

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