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発信者情報開示請求に関する法改正(第2回)

2021年7月16日更新

サポートクラブ 法務News&Topics

発信者情報開示請求に関する法改正(第2回)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]
前回に引き続き、プロバイダ責任制限法に関する法改正について、主要な改正項目ごとに、その概要を紹介します。
以下のとおり、改正法施行後は、被害者にとっては、一定の負担の軽減等がなされ、選択肢が広がることとなります。

電話番号を開示対象に追加

この点は、今回の法改正に先立って行なわれた総務省令の改正によるものですが、発信者情報開示請求において開示対象となる発信者情報に、従来から認められていた、住所、氏名、メールアドレス、IPアドレス(※インターネット上の住所や電話番号のようなもの。詳細は、前回のコラムをご参照ください)等に加えて、新たに、電話番号が追加されました。
これは、コンテンツプロバイダ(掲示板の管理者やSNS事業者等)であっても、電話番号を用いた2段階認証を利用者に要求している場合など、電話番号を保有しているケースがあるためです。
被害者としては、コンテンツプロバイダから電話番号の開示を受けることができれば、当該電話番号の契約者の住所・氏名について、弁護士会照会(弁護士法23条の2に基づく、弁護士会を通じた照会)を電話会社に対して行なうことによって、発信者を特定できる可能性があります。すなわち、アクセスプロバイダ(発信者がインターネットに接続するために契約しているプロバイダ)に対して訴訟を提起することなく、発信者を特定できる可能性があります。

ログイン時情報の開示を可能とする見直し

SNS等では、ユーザーIDやパスワードを入力することによって、アカウントにログインし、ログインした状態でさまざまな投稿を行なうことができるサービスが主流となっています。
このようなログイン型サービスのなかには、コンテンツプロバイダにおいて、投稿時のログ情報(IPアドレス等)は保有しておらず、IDやパスワードを入力する時のログ情報(ログイン時情報)しか保有していない場合があります。そのような場合に、発信者情報として、ログイン時情報の開示を求めることができるかどうかについては、裁判例が分かれていました。
そこで、改正法では、一定の要件の下で、このようなログイン時情報も開示対象となることが明らかにされました。

新たな裁判手続の創設

前回紹介したとおり、現行法の下では、プロバイダが任意に開示に応じない限り、発信者を特定するまでには、少なくとも2段階の裁判上の手続を経る必要があります。
そこで、現行の手続も存置したうえで、1つの手続のなかで完結することができる新たな裁判手続が創設されました。手続の詳細は割愛しますが、大まかな概要は、以下のとおりです。
まず、被害者は、コンテンツプロバイダを相手として、裁判所に対し、「発信者情報開示命令」と、これに付随して、「提供命令」を申し立てます。
「提供命令」が発令されると、コンテンツプロバイダから被害者に対してアクセスプロバイダの情報が提供されます。被害者は、それに基づき、アクセスプロバイダを相手として、裁判所に対し、「発信者情報開示命令」を申し立てることになりますが、「提供命令」により、被害者には秘密にされたまま、コンテンツプロバイダが保有する投稿時のログ情報(IPアドレス等)等がアクセスプロバイダに提供されます。
また、被害者は、アクセスプロバイダを相手として、「発信者情報開示命令」に付随して、アクセスプロバイダが保有する投稿時のログ情報等が消去されないよう、「消去禁止命令」を申し立てることができます。
その後、裁判所は、「発信者情報開示命令」を発令するかどうか、判断することとなります。「提供命令」「消去禁止命令」により、「発信者情報開示命令」の審理中であっても、アクセスプロバイダが保有する投稿時のログ情報等の保存が確保されることになります。


新たな裁判手続のメリット

・複数のプロバイダが存在しているケース

新たな裁判手続のほうが、現行法の下での2段階の裁判上の手続と比較して、要する時間や費用が少なくて済む可能性があります。
また、「2段階」と表現してきましたが、実際には、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの間に、他にもプロバイダが入っているケースもあり、2段階では済まないケースもあります。そのような場合には、新たな裁判手続が特に有用と考えられます。

・コンテンツプロバイダが海外の事業者であるケース

新たな裁判手続は、コンテンツプロバイダが海外の事業者である場合も、特に有用となるケースがあり得ます。
すなわち、新たな裁判手続は、訴訟手続(通常の訴訟)ではない、「非訟手続」と位置付けられています。両者の違いの一つに、相手方に対する訴状・申立書の送付方法の違いが挙げられます。
訴訟手続の場合には、「送達」という正式な手続により裁判所から訴状を送付する必要があります。国内であれば特段時間を要しませんが、海外へ送達する場合には、外務省や大使館などを経由する必要があるため、少なくとも数か月はかかってしまいます。これに対し、非訟手続であれば、送達による必要がなく、相手方に対して直接EMS(国際スピード郵便)等で送付されますので、あまり時間を要しません。
申立書の送付が送達による必要がないという点は、前回紹介した仮処分も同様であるため、仮処分を利用できる場合は、あまり差異はありません。
他方でたとえば、コンテンツプロバイダから電話番号の開示を受けようとする場合、電話番号は投稿時のIPアドレス等のように短期間に削除されてしまう情報ではなく、「保全の必要性」がないため、仮処分は利用できず、現行法の下では、通常の訴訟を提起するしかないと解されています。このような場合には、新たな裁判手続を利用することが特に有用と考えられます。
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執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、平成21年に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設し約10年。『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)等著作、講演多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。


坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)入所。「判例から学ぼう!管理職に求められるハラスメント対策」(エヌ・ジェイ出版販売株式会社)等講演、著作多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

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