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新型コロナワクチンの職域接種に係る課税関係

2021年7月20日更新

サポートクラブ 税務News&Topics

新型コロナワクチンの職域接種に係る課税関係

[田中康雄氏(税理士)]
新型コロナウイルス感染症拡大の収束に向けたワクチン接種の加速化を図るため、企業や大学などでの職域接種が実施されています。
これに対応して、税務上においても、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 」(令和3年7月2日更新)に、新型コロナワクチンの職域接種に関する法人税、所得税の取扱いが追加されました。
そこで、本コラムでは、新たに公表された、新型コロナワクチンの職域接種に係る課税関係について確認します。

法人税の取扱い

企業で実施される新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種は、本来、市区町村が実施するワクチン接種の業務を、市区町村から委託を受けて実施する形になります。
そのため、市区町村からは企業に対し委託の対価が交付されますが、接種を実施する企業では接種会場の設営にあたり、会場使用料などの費用(会場準備費用)が発生します。
このとき、会場準備費用が委託の対価を上回れば、企業にとっては費用負担が生じることになります。また、接種の希望対象者のなかに自社の従業員やその親族だけではなく、関連会社や取引先の従業員等が含まれている場合、その関連会社や取引先に対する課税関係が問題となります。
この点、ワクチン接種は、社内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止し、今後の業務の遂行上においても著しい支障の発生防止につながるとの観点から、これに係る費用の負担は業務遂行に必要なものであると捉え、関連会社や取引先に対しその負担を求めなくても、法人税法上の交際費や寄附金には該当しないことが示されています。
なお、企業から依頼を受けた外部の医療機関が企業に出張してワクチン接種を実施する場合や、接種の希望対象者に接種会場の近隣住民を追加した場合においても、同様の取扱いになります。

所得税の取扱い

(1)会場準備費用を個人が負担しないことの取扱い

新型コロナワクチンの接種においては、被接種者が接種に要する費用を負担することはありません。
そのため、職域接種を実施する企業が、その接種希望者として、その企業に勤務する役員や従業員その他これらの者と同居する親族のほか、関連会社や取引先の従業員、接種会場の近隣住民を対象とし、これらの会場準備費用を企業側で負担している場合であっても、その負担した会場準備費用については、これをその役員や従業員に対する給与として課税する必要はなく、これら以外の者に対しても所得税の課税対象にする必要はありません。

(2)接種会場までの交通費の取扱い

職域接種として実施される新型コロナワクチンの接種会場は、これを実施する企業等が所在する近隣周辺とは限りません。
そのため、役員や従業員が接種会場まで移動する際には交通費が発生することもありますが、こうした個人的な接種のための交通費であっても、これを職務命令に基づいて出張する場合の旅費と同様の取扱いとすることで、接種会場への交通費として相当な額であれば、これを所得税法上、非課税として取り扱うことができます。

(3)接種証明書の取得に係る費用の取扱い

外部委託業者による出張の職域接種を実施するにあたり、接種を受けた役員や従業員について、デジタルワクチン接種証明書の交付を受けられる場合があります。
この費用について、その証明書が海外出張の際に必要とされるなど、業務を遂行するうえで必要な費用に該当する場合には、これを取得するために会社が負担した費用は、役員や従業員に対する給与には該当しません。


新型コロナワクチンの接種において個人が金銭等を求められることはなく、これにより課税関係が生じることもありません。
企業の協力のもと、新型コロナワクチンの接種がどんどん進んでいけば、感染症拡大のスピードを抑えることが期待できるかもしれません。
執筆者プロフィール

田中康雄氏(税理士)
税理士法人メディア・エス、社員税理士。慶應義塾大学商学部卒業。法人税、消費税を専門とし、上場企業から中小企業まで税務業務を担当。資産税関連も含め税務専門誌に多数執筆。主要著書『ケース別「事業承継」関連書式集』(共著、日本実業出版社)、『設備投資優遇税制の上手な使い方[第2版]』(税務経理協会)、『こんなに使える試験研究費の税額控除』(税務経理協会)。
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