現在の日本の法人税の実効税率は、地方税も合わせ29.74%と公表されています(財務省)。
平成28年度税制改正によって、日本の実効税率は30%を下回る水準になりましたが、これは法人事業税のうち実効税率の計算要素には含まれない外形標準課税制度に係る税率を引き上げる代わりに、実効税率の計算要素となる所得割の税率を引き下げた効果によるものといえます。
ただ、実効税率は大企業が税効果会計を適用する際の税率となるため、中小企業にとってはこれを活用する場面はほとんどありません。
そこで、本コラムでは、中小企業に対して適用される法人税率がどれほどなのか、確認してみることにします。
中小企業に対する課税のための税目と税率
①法人税
中小企業に対する法人税率は、軽減措置が講じられているため、以下のとおり2段階になっています。課税所得年800万円以下の部分 | 15% |
課税所得年800万円超の部分 | 23.2% |
②地方法人税
地方法人税は、地域間の税源の偏在是正のため、令和元年10月1日以後開始する事業年度より、法人税の額を課税標準として、以下の税率となっています。法人税額×10.3% |
③法人道府県民税(均等割を除く)
地方税は、条例により、地方税法に定めた税率(標準税率)を超えた税率(超過税率)で課税することができますが、本コラムでは、すべて標準税率で確認します。②と同様に、下記④も含め、法人税の額を課税標準とします。法人税額×1.0%(標準税率) |
④法人市町村民税(均等割を除く)
法人税額×6.0%(標準税率) |
⑤法人事業税
中小企業は外形標準課税制度の適用対象外のため法人事業税は所得割のみとなり、軽減税率不適用法人(※)以外の法人に対する税率は、以下のとおり3段階になっています。課税所得年400万円以下の部分 | 3.5%(標準税率) |
課税所得年400万円超800万円の部分 | 5.3%( 〃 ) |
課税所得年800万円超の部分と軽減税率不適用法人 | 7.0%( 〃 ) |
(※)軽減税率不適用法人とは、資本金の額が1,000万円以上で、かつ、3以上の都道府県に事務所や事業所を有する法人をいいます。
⑥特別法人事業税
令和元年10月1日以後に開始する事業年度より、上記②の地方法人税と同様に、地域間の税源の偏在是正のため法人事業税の税率が引き下げられるとともに、地方法人特別税が廃止される代わりに特別法人事業税(国税)が創設されました。課税標準は、必ず標準税率で計算された法人事業税の所得割の税額となります。法人事業税額×37% |
表面税率と実効税率の算式
中小企業がその事業年度の納付税額を予測する際、実効税率よりも表面税率で計算することが有効といえるでしょう表面税率は、次の算式のとおり、それぞれの税目を単純に積み上げた税率となります。
<表面税率の算式>
+法人税率×道府県民税率+法人税率×市町村民税率
+法人事業税率+法人事業税率×特別法人事業税率
<実効税率の算式>
+法人事業税率+特別法人事業税率)
1+法人事業税率+特別法人事業税率
中小企業の表面税率の計算
中小企業の場合、法人税率については軽減措置が講じられています。また、法人事業税でも、軽減税率不適用法人以外の法人に対しては、課税所得に応じて段階的に税率が異なります。ここでは、最も表面税率が低くなる課税所得が年400万円以下の場合と、課税所得が年800万円を圧倒的に超え、もはや法人税や法人事業税の軽減措置の恩恵をほとんど受けない場合として、最高税率のみで計算した場合の表面税率とを比較してみます。
15%+(15%×10.3%)+(15%×1.0%)+(15%×6.0%)
+3.5%+(3.5%×37%)≒22.4%
23.2%+(23.2%×10.3%)+(23.2%×1.0%)+(23.2%×6.0%)
+7.0%+(7.0%×37%)≒36.8%
具体的には、たとえば、法人税における軽減税率の適用ラインとなる課税所得が年800万円の場合では、表面税率は約23.6%となります。
また、課税所得が年1,500万円ほどになると、表面税率は財務省が公表する実効税率(29.74%)を超え始めます。そして、課税所得が年5,000万円を超えると各軽減税率の影響が大幅に薄れ、おおよそ34%台後半から35%台で推移し、課税所得が年1億3,000万円を超えるとほぼ36%に達します。
このように、中小企業の表面税率は、課税所得が大きくなればなるほど、まだまだ高い水準にあるといえます。
今般の新型コロナウイルス感染症拡大により財政は大きな影響を受けたため、法人税率を引き上げることで安定化を目指したいところかもしれませんが、国際競争力という観点に目を向ければ、税率の改正に踏み込むことはなかなか難しいかもしれません。