これを受けて、租税特別措置法関係通達(法人税編)関係が改正され(令和3年6月25日付)、「試験研究の意義」や「試験研究に含まれないもの」が新設されたことで、試験研究費の範囲が明確化されました。
また、これとともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)促進のために租税特別措置法が改正され、業務改善を目的とした自社利用ソフトウエアの製作や改良(ソフトウエア開発)のために要する費用についても、試験研究費として研究開発税制の対象とすることとされました。
そこで、本コラムでは、業務改善目的の自社利用ソフトウエアに関する研究開発税制の適用の余地について確認します。
改正前の業務改善目的の自社利用ソフトウエアの取扱い
研究開発税制の対象となる試験研究費は、損金算入を要件としています。そのため、自社利用のソフトウエア開発については、会計上「研究開発費」として損金経理されたとしても、税務上では資産計上が原則となることから損金算入されることはなく、これらは研究開発税制の試験研究費には該当しないこととされていました。
また、特に業務改善を目的としたソフトウエア開発の場合、これが完成して運用が始まっても、その運用目的があくまでも業務改善である以上、試験研究の対象を自然科学に求める研究開発税制においては対象外となり、これを事業の用に供したことで計上される償却費についても試験研究費には該当しないことになります。
改正の内容(考え方)
今回の改正では、研究開発税制上の試験研究費のなかに、固定資産等の取得価額が含まれることになりました。自社利用のソフトウエア開発における処理方法は、会計上、税務上ともに変わることはありませんが、税務上においては、取得価額に算入すべき費用までも試験研究費に含めることとし、研究開発税制を適用できる試験研究費の範囲が拡充されました。
ただ、研究開発税制における試験研究の目的は、あくまでも自然科学に関するものである必要がある以上、業務改善のためのソフトウエア開発は、これに該当しないのではないかとの疑義が生じるかもしれません。
この点、試験研究費はあくまでもソフトウエアの開発活動に係る費用を対象としており、これが完成した後の利用目的に影響を受けることはありません。
したがって、自社利用のソフトウエア開発のための費用は、税務上、取得価額に算入されることに変わりはありませんが、その取得価額に算入すべき開発研究費について、これを研究開発税制における試験研究費と認めることで、たとえ自社利用のソフトウエア開発が業務改善を目的としたものであっても、これに係るものは試験研究費として研究開発税制の対象になる、ということになります。
税務上の留意点
自社利用ソフトウエアを開発するための費用については、これまでどおり、税務上、取得価額に算入すべきとされていますが、これを研究開発税制の試験研究費の対象とする場合には、会計上においては損金経理することが求められています。つまり、会計上は費用処理すべきであるのに対し、税務上は資産計上する必要があるため、会計上と税務上との間で処理方法が異なることになります。
そのため、会計上において費用処理された部分については、申告の際、申告調整する必要があります。
これまで、国税庁が公表していた『Q&A研究開発減税・設備投資減税について(法人税)』(平成15年10月)のなかで、試験研究費に該当しない費用の例示の一つとして、「事務能率・経営組織の改善に係る費用」が挙げられていたため、業務改善に係る費用については試験研究費には該当しないとする見解が一般的でした。
しかし、今般の改正により、業務改善を目的とするソフトウエア開発に係る試験研究のために要する費用が「試験研究費」に該当することが示されたことで、研究開発税制を適用できる範囲が拡充されたといえるでしょう。
これにより、今までよりもいくらか研究開発税制が身近な税制になったといえるかもしれません。