印紙を貼り忘れると3倍ものペナルティが課せられる、といった話を耳にすることがあるかもしれません。しかし、そもそも作成した契約書などが課税文書に当たるのかどうかの判断も難しいなかで、単なる印紙の貼付漏れに対して、実務上、これほどの大きなペナルティを負うことになるのでしょうか。
本コラムでは、印紙税に係るペナルティの実態を確認していきます。
印紙に係る税務調査
印紙の貼付漏れは、通常、法人税などの税務調査(調査)のなかで、契約書などを確認する際に発覚することが多いといえます。そのため、印紙税だけに限定した税務調査が実施されることは少なく、また、調査においても印紙税に特化した調査官が同行するようなケースはほとんどありません。
調査のなかで印紙の貼付漏れが発覚すると、他の契約書や書類に対しても確認が進み、特に請負契約や基本契約などが多い業種や会社では、調査官のうちの一人が時間をかけてチェックするといったケースが見受けられます。
ただ、印紙税の時効は5年となっているため、チェックの対象は直近の契約書等に絞って進められていきます。
印紙の貼付漏れによるペナルティ
印紙を貼付すべき課税文書に印紙を貼り忘れた場合、本来貼付すべきであった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額(つまり印紙税の額の3倍)に相当する「過怠税」が徴収されます。ただし、調査を受ける前に、自主的に不納付を申し出たときは、3倍の過怠税は1.1倍に軽減されます。調査のなかでは、単に貼り忘れただけとの判断がなされれば、調査官はこの軽減によるペナルティを提案し、納税者に「印紙税不納付事実申出書」の提出を促すのが実務上の実態になります。
また、印紙の貼付があるものの、これに消印がされていない場合には、その消印されていない印紙の額面に相当する金額の過怠税が課されることになるため、印紙への消印にも注意が必要です。
3倍の過怠税となるケース
過怠税が軽減されるのは、あくまでも当初から課税文書に該当しないと判断していた場合など、単純な貼り忘れによるケースに限られ、印紙の取扱いが悪質なケースでは3倍の過怠税を免れることはできません。悪質なケースとしては、たとえば、印紙を使いまわしている場合や、印紙を貼付した契約書等をカラーコピーして印紙部分に押印している場合などが考えられます。調査のなかで、調査官は契約書等に貼付された印紙を指で確認したり、契約書等の裏面にある朱肉の形跡を確認したりして印紙の取扱いをチェックしていきます。
また、印紙のデザインは不定期に変更されているため、調査の直前に印紙の貼付漏れに気づき、慌てて購入した印紙を貼付するような場合には注意が必要です。このようなケースでは、過怠税についての決定があるべきことを予知してなされた行為に該当するものとして、3倍の過怠税が課されてしまう可能性もあります。
過怠税の納付
調査などにおいて印紙の貼付漏れ等により過怠税が課せられた場合であっても、本来貼付すべきであった印紙を購入し、これを改めて契約書に貼付する必要はありません。過怠税は、納付すべき税額を税務署等の側から通知する賦課課税方式が採用されており、その通知される「納税告知書」に従って現金で納付します。
過怠税は、本来貼付すべきであった印紙の本体部分の金額も含めてペナルティとして取り扱われるため、過怠税の納税による本来の印紙の金額の1.1倍相当額や3倍相当額の全額が損金不算入となります。