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アフターコロナの人材獲得競争に向けて

2022年1月18日更新

中小企業の人材確保を実現する“アフターコロナ”の人事・賃金制度

アフターコロナの人材獲得競争に向けて

[神田靖美氏(賃金コンサルタント)]
コロナ禍も、3年目に入ろうとしていますが、中小企業の求人難は徐々に高まっています。日本政策金融公庫の『全国中小企業動向調査(中小企業編)』では、「経営上の問題点」として「求人難」を挙げる企業の割合が、5四半期連続で増加しています。
この傾向はコロナ禍の収束とともに加速していくことが予想され、今のうちに人材獲得に向けた戦略を立てておくことが重要です。
今回は、コロナ禍収束後にとるべき賃金戦略について考えてみました。

賃金は高いほうがよい

優秀な人材を採用するための第一の条件は、やはり高い賃金を払うということです。
仕事内容や労働時間が同じであれば、低賃金会社が高賃金会社より優秀な人を獲得する方法というものはありません。
高い賃金を払うことは、社員にとってありがたいだけでなく、会社にとっても効率的なことです。「情けは人のためならず」ということわざに倣っていえば、「高賃金は社員のためならず」です。
高い賃金は、
①仕事を怠けるのを防ぐ
②労働者が高い賃金を会社からの「贈り物」であると感じて、恩返ししようとする
③離職率が下がることを通して、教育訓練費や募集経費が下がる
④人材採用において、多くの応募者のなかから選べる
という4つの効果を通して会社の業績を押し上げます。
もちろん、賃金は高ければ高いほど会社にとってよい、というわけではありません。「飽和点」があります。
いま、ある会社が世間相場を下回る賃金に甘んじているとします。そこから1%賃金を上げたら、生産性は1%を超えて上がるはずです。さらに賃金を1%上げても、やはり生産性は1%を超えて上がるでしょう。
しかし、どこかで、賃金を1%上げても生産性が1%ちょうどしか上がらないというところに突き当ります。それ以上、賃金を上げても、企業は見返りを得られません。
そこが飽和点であり、そのような賃金が企業にとって最も効率的であるという意味で「効率性賃金」といいます。要するに、「まだ賃金を上げてもお釣りがくる」と感じられるうちは上げるということです。
まず生産性を上げて、それから賃金を上げるなどと考えていたら、いつ実現するかわかりません。誰かが退職したときがチャンスです。無定見に後任を補充するのではなく、残ったメンバーで、人数が減ったぶん賃金を上げて経営していく道を考えましょう。

人はインセンティブに反応する

もう一つ、生産性が高い人材を引き付ける賃金制度があります。インセンティブ給与、つまり出来高制や歩合制の賃金のことです。
インセンティブ給与には、もともと働いていた人がよりいっそう努力するようになるという効果があり、これを「インセンティブ効果」といいます。
また、生産性が低い人が辞めて、生産性が高い人が入ってくるという効果もあり、これを「仕分け効果」といいます。
インセンティブというと営業パーソンやタクシードライバーなどを連想しがちですが、実は幅広い職種で使えます。
事務担当者にはミスの少なさや締め切り遵守度などに応じて、企画担当者であれば、企画のヒット具合などに応じてインセンティブを設定することが可能です。
また、管理職が部門目標よりも個人目標を優先してしまうと悩む経営者がいますが、管理職に部門目標の達成度に応じたインセンティブを設定することで解決されます。
インセンティブ給与は、テレワークとも相性の良い制度です。コロナ禍収束後に向けて、導入を検討してみてもよいでしょう。


モチベーション理論のひとつに「衡平理論」というものがあります。人は、自分がもらい過ぎであると感じたときは、より一層努力することによって不公平を解消しようと努め、割に合わないと感じたときは、怠けることによって不公平を解消しようとするというものです。そして、割に合わないと感じたときの行動のほうが顕著に表われます。
働き方に様々な選択肢が生まれた今こそ、自社の賃金制度を見直すチャンスといえます。今のうちに、社員の生産性向上につながる賃金戦略を見極めておきましょう。
執筆者プロフィール

神田靖美氏(賃金コンサルタント)
人事制度のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。(株)ナショナル証券経済研究所、(株)賃金管理研究所を経て、2010年リザルト株式会社設立。主に中小企業向けに、賃金・評価制度の導入をサポートしている。日本実業出版社『企業実務』に賞与相場、賃上げ相場の予測記事を20年にわたり執筆中。著書に『成果主義賃金を正しく導入する本』(2003年、あさ出版)など。日本賃金学会会員。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。
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