特定支出控除の概要
給与所得者が下表のような特定支出をした場合において、その特定支出の額がその年中の給与所得控除額の2分の1を超えるときは、その超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くこと(特定支出控除)ができます(下掲の計算例を参照)。なお、特定支出控除の対象となる特定支出については、会社によって填補されるものとして所得税が課されない部分は、これに含めることはできません。
たとえば、会社から支給される通勤手当等のうち、所得税の計算上、非課税とされる部分は、<表>(1)通勤費に含めることはできません。非課税の枠を超えたため給与課税の対象となった通勤手当等のうち、通勤経路等として経済的、合理的と認められる部分が、特定支出に含まれることになります。
<表 特定支出の分類>
特定支出 | 【区分】 | 内容 | |
(1)通勤費 | 【区分1】 | 通勤のために必要な交通機関の利用等のための支出 | |
(2)職務上の旅費 | 【区分256】 | 勤務場所を離れて職務を遂行するために必要な旅行のための支出 | |
(3)転居費 | 【区分2】 | 転任に伴う転居のための支出 | |
(4)研修費 | 【区分4】 | 職務遂行上、直接必要な技術や知識等を習得するための研修に要する支出 | |
(5)資格取得費 | 【区分8】 | 職務に必要な資格を取得するための支出(税理士、社会保険労務士などの資格取得費用) | |
(6)帰宅旅費 | 【区分16】 | 単身赴任等、勤務地または居所と自宅の間の旅行のための支出 | |
(7)勤務必要経費 (65万円が限度) |
(図書費) | 【区分32】 | 書籍、定期刊行物等の図書で職務に関連するものを購入するための支出 |
(衣服費) | 【区分64】 | 制服、事務服、作業服等、勤務場所で着用することが必要とされる衣服を購入するための支出 | |
(交際費等) | 【区分128】 | 交際費、接待費等、会社の得意先や取引先などに対する接待、供応等のための支出 |
計算例
たとえば、給与等の収入金額が200万円(このときの給与所得金額は132万円になります)で、特定支出の合計額が40万円の場合、確定申告により特定支出控除適用後の給与所得金額は、次のとおり計算することができます。・給与等の収入金額の合計(①) | 2,000,000円 |
・特定支出控除適用前の給与所得金額(②) | 1,320,000円 |
・給与所得控除額(③=①-②) | 680,000円 |
・③×1/2(④) | 340,000円 |
・特定支出の合計額(⑤) | 400,000円 |
・特定支出控除後の金額(⑥=⑤-④) | 60,000円 |
・特定支出控除適用後の給与所得金額(①-③-⑥) | 1,260,000円 |
確定申告の手続き
特定支出控除の適用を受けるには、確定申告が必要です。確定申告書を提出する場合には、「給与所得者の特定支出に関する明細書」や、会社に依頼して交付を受けた特定支出に関する証明書(様式は国税庁のホームページ に掲載)の添付が必要となります。
また、申告に際しては、特定支出に係るその支出の事実や金額を証する書類(領収書等)の添付またはこれらの提示が必要です。
なお、確定申告書の書き方として留意すべきなのは、第一表にある「所得金額等」のうち「給与」の「区分」欄に、<表>の特定支出別に掲げた【区分】の番号の合計を記載するとともに、第二表の「特例適用条文等」欄に「所法57の2 ○○○円」(○○○円は特定支出の合計金額)と記載しておくことです。
なお、オミクロン株が蔓延するなか、2021年分の申告所得税、贈与税、個人事業者の消費税の申告に関し、新型コロナウイルス感染症の影響により申告することが困難なときは、簡易な方法による個別延長申請により、2022年4月15日(金)まで、申告・納期限を延長できることが公表されました(「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(国税庁) 1-問2、2022年2月3日更新)。
簡易な方法による個別延長申請とは、各申告書の余白に【新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請】といった文言を付記する、e-Taxを利用している場合には所定の欄にその旨を入力する方法などをいいます。別途、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を作成・提出する必要はありません。