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「一人親方」への報酬の支払いと所得区分

2022年6月6日更新

サポートクラブ 税務News&Topics

「一人親方」への報酬の支払いと所得区分

[田中康雄氏(税理士)]
大工や左官、とび職等の業界では、建設現場等に一人で従事している、いわゆる「一人親方」と呼ばれる自営業者が多く、これらの者と継続的に仕事をするケースも少なくありません。
こうした一人親方への報酬については、税務調査のなかで「外注費」に該当するのか、それとも「給与」なのか、頻繁に取り上げられます。
そこで、本コラムでは、その判断の根拠となる法令解釈通達について確認します。

一人親方に対する報酬の所得区分と税務調査の視点

一人親方への報酬が外注費に該当する場合には、個人事業主となる一人親方にとっては、通常は「事業所得」になります。
事業所得とは、自己の計算において独立して行なわれる事業から生じる所得をいい、請負契約などに基づいて遂行される業務や役務の提供の対価をいいます。
これに対し、雇用契約またはこれに準ずる契約に基づく対価に該当すると認められる場合は「給与所得」となります。
税務調査では、一人親方に対して報酬を支払う法人側の消費税と源泉徴収の取扱いが問題となります。
消費税に関していえば、外注費であれば課税仕入れとして仕入税額控除の対象となりますが、給与であれば対象外(不課税)ということになります。
また、外注費であれば源泉徴収は不要ですが、給与であれば源泉徴収義務が生じます。
こうしたことから、外注費として処理していた一人親方への報酬が、税務調査によって給与と判断された場合には、消費税の本税の追徴だけではなく、過少申告加算税や源泉徴収税額に対する不納付加算税のペナルティが課されます。

外注費に該当するかの判定

建設、据付け、組立て等の作業により一人親方が受ける報酬について、これらが請負契約等による対価なのか、あるいは雇用契約等による対価なのか、その区分が明らかでない場合には、次の(1)~(4)を総合的に勘案し、それぞれがクリアされていれば、外注費として取り扱うことができます。
(1)その一人親方の業務の遂行または役務の提供について、他人の代替が許容されること

→たとえば、一人親方が急病等で作業に従事できない場合に、自己の責任において他の者を手配し、その他の者が行なった役務提供に係る報酬であっても、その一人親方に支払われるようなケースが該当するといえます。

(2)報酬の支払者から時間的な拘束や指揮監督を受けないこと

→具体的には、作業時間に関係なく、作業内容に応じて報酬が支払われるようなケースが該当します。そのため、報酬が時間を単位として計算されるなど時間的な拘束を受ける場合には、給与所得と判断される可能性が高いでしょう。
また、現場監督等から、作業の具内的な内容や方法等が指示されているような場合にも、給与所得に該当する可能性が高いといえます。しかし、指示書等によって通常注文者が行なう程度の指示や、他職種との工程の調整・事故発生の防止のための作業方法等の指示がなされている程度であれば、支払者の指揮監督下にあるとは認められず、外注費となるでしょう。

(3)引渡未了物件等が不可抗力のために滅失等した場合に、すでに遂行した業務や提供した役務に対して報酬を請求できないこと

→たとえば、完成品が引渡し前に台風等によって損壊した場合には、提供した役務の対価を請求することができないようなケースが該当します。

(4)役務の提供に係る材料または用具等を報酬の支払者から供与されていないこと

→作業に当たり、たとえば、手持ちの大工道具以外は報酬の支払者が所有する用具を使用している場合は、「材料または用具等を報酬の支払者から供与されている」場合に該当します。

税務調査では、一人親方に対する報酬が給与に該当するのではないかとの疑念をもって、外注先からの請求書等の確認が進められるケースが多いといえます。
報酬の支払者の事務所に集合し、その従業員らとともに現場に出発することが常態化しているようなときは、特に注意が必要といえるでしょう。
執筆者プロフィール

田中康雄氏(税理士)
税理士法人メディア・エス、社員税理士。慶應義塾大学商学部卒業。法人税、消費税を専門とし、上場企業から中小企業まで税務業務を担当。資産税関連も含め税務専門誌に多数執筆。主要著書『ケース別「事業承継」関連書式集』(共著、日本実業出版社)、『設備投資優遇税制の上手な使い方[第2版]』(税務経理協会)、『こんなに使える試験研究費の税額控除』(税務経理協会)。
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