本コラムでは、法改正の内容や導入方法等について解説します。
改正の背景としては、昨今、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進み、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取りに活用するニーズも一定程度みられること等があります。そうしたことを踏まえ、労働者の同意を得た場合、一定の要件を満たす資金移動業者の口座へ資金移動による賃金支払い(以下、「賃金デジタル払い」といいます)が可能になります。具体的には、賃金を○○ペイで支払うことができる、ということです。
この制度は、使用者が必ず導入しなければならない、というものではなく、使用者が賃金の支払方法の選択肢として「賃金デジタル払い」で支払うことを希望すれば、導入することができます。
また、労働者も「賃金デジタル払い」で賃金の受取りを希望するのであれば、個別に同意をすることにより可能になります。
要は、会社と労働者の双方が希望することにより制度を適用するもので、決して強制するものではありません。
(1) 改正の内容
現在の法律は、賃金の支払方法を「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない(労働基準法第24条)」と定めています。また、労働者が同意した場合、通貨払いの原則の例外として、①銀行口座、②証券総合口座への賃金支払いが認められています(労働基準施行規則第7条の2)。
今回、労働基準法施行規則の改正により、2023年4月から賃金の支払い・受取り方法の選択肢に、「賃金デジタル払い」が新たに加わります。
・原則:通貨(現金)払い
・例外(労働者の同意を得た場合):①銀行口座、②証券総合口座、③賃金デジタル払い
(2) 制度導入の流れ
使用者が賃金の支払方法の選択肢の一つとして、「賃金デジタル払い」を導入する場合、次の流れで導入を進めることになります。①就業規則等の改定
賃金の支払方法について、現金払いや銀行振込方法のほか、「デジタル払い」の方法がある旨を明示します。
②労使協定の締結
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と「賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定」を締結します。
③労働者と個々の同意
賃金デジタル払いを希望する個々の労働者は、留意事項等の説明を受け、制度を理解したうえで、同意書に賃金デジタル払いで受け取る賃金額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報等を記載して、使用者に提出します。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001017091.pdf
(3) 注意事項
賃金デジタル払いを導入する場合、その他の賃金の支払方法の選択肢として、現金または賃金デジタル払い以外にも、銀行口座または証券総合口座への賃金支払方法も併せて提示することが必要です。現金または銀行口座
現金または証券総合口座
現金または銀行口座または賃金デジタル払い
現金または証券総合口座または賃金デジタル払い
(4) 導入に向けて
前述のとおり、賃金デジタル払い制度の導入は、使用者の判断によるものです。今回の賃金デジタル払いにかかわらず、組織として「新しい制度を導入する」というプロジェクトを進めるうえでは、労働者のニーズを調査・分析することも必要になります。労働者と対話しながら進めることができれば、労働者の会社に対する想いが深まり、よりよい組織の発展につながるかもしれません。まずは、労働者の声を聞いてみてはいかがでしょうか。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html