目次
1.ジェンダーギャップ指数が示す日本の「伸びしろ」
ジェンダーギャップ指数は、男女格差について「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野でそれぞれ評価し、そのうえで総合スコアを算出するものです。
特に目立つのが「政治」の低さで、146か国中の138位ですから世界最低レベルと言っても過言ではないでしょう。
本連載に最も関係のある「経済」のスコアは123位で、こちらもかなり低く、とてもではないですが先進国とは言いがたい順位となっています。 生産年齢人口の減少によって労働供給制約社会が到来してしまうという「2040年問題」について以前(※)お伝えしました。
(※)「2040年問題」を克服するためには 時代に応じた知識やスキルのアップデートが必要!
この問題への対応は最優先課題であり、今から備えていく必要があるとコラムの中で強調しましたが、その「備え」の各論の1つが女性活躍推進となります。
2040年における労働力数の予想は、現状以上の女性の労働参加や活躍を前提としたものです。それでも深刻な労働力不足が予想されているということを、中小企業の人材・組織マネジメントを考えるうえで、重く受け止める必要があるのです。
なぜなら、女性活躍に真剣に取り組まない企業は、女性という人材から選ばれない企業となり、人材不足に陥ることは必至だからです。
同時に、日本のジェンダーギャップ指数があまりにも低い現状は、改善可能性に満ちているという前向きな受け止め方も必要です。女性活躍推進に向けて動き出すことは今からでも遅くないどころか、日本の各企業の中で先頭グループ入りする可能性が多分に残されているからです。
女性活躍のためには、乗り越えなければならない壁が多数あるのも事実ですが、自社の人材・組織マネジメントに「伸びしろ」が残されているというプラス思考で、他社に先駆けようという意識を持ちつつ、ぜひその壁を乗り越えてもらいたいと思います。
2.日本は女性という「人的資本」への投資に強い意識を
ここで、本連載ですでにご説明した人的資本に関する情報開示のガイドラインである「ISO30414」の項目を改めて眺めてみると、大項目に「女性」という文字は登場しません。
①コンプライアンス・倫理
②コスト
③多様性(ダイバーシティ)
④リーダーシップ
⑤組織文化
⑥組織の健全性、安全性、ウェルビーイング
⑦生産性
⑧採用・異動・離職
⑨スキル・能力
⑩サクセッションプラン
⑪労働力の利用可能性
女性活躍実現のレベルから、さらに多様性(ダイバーシティ)の実現のレベルへと問題意識が向上しているからこそのことです。 多様性(ダイバーシティ)の項目の中には「性別」も当然含まれていますが、あくまで多様性の1つとしての扱いを受けています。
経営陣における女性の割合は重視されていますが、従業員レベルで特に性差の問題にこだわっているわけではありません。
ここからも、欧米各国において従業員レベルでの女性活躍は「当然」という意識が浸透していることがわかります。
そうであるならば、日本における人的資本経営の実践や開示については、ISO30414のような欧米各国のスタンダードをそのまま受容するのではなく、「女性活躍」という意識を強く持って行なう必要があるということになります。
日本においては当然ではないからこそ、人的資本経営に関するあらゆる項目について、女性が参加できているか、女性を活用できているか、女性が満足できているかという視点から意識的に確認する作業が必要になります。
仮に従業員満足度が高い中小企業があったとしても、それが「圧倒的多数の男性従業員」によるものであるならば、それで良しとしてはなりません。女性にも参加してもらい、満足してもらおうという貪欲さが、労働供給制約社会の生き残り戦略としても有効に働くはずです。
3.女性活躍という視点から自社を捉え直す
ここでは10のポイントに絞って列挙してみます。
①採用した従業員に占める女性従業員の割合(女性採用率)
②正社員に占める女性従業員の割合(女性正社員率)
③管理職に占める女性従業員の割合(女性昇格比率)
④女性従業員の平均賃金
⑤女性従業員の月平均残業時間
⑥女性従業員の有給休暇取得状況
⑦女性従業員の育児休業取得率
⑧非正規女性従業員の正社員転換状況
⑨女性従業員の平均勤続年数
⑩退職者に占める女性従業員の割合
これらのポイントを考える際には、「男性従業員との比較」を忘れずに行なってください。
①採用した従業員に占める女性従業員の割合(女性採用率)
採用を行なった「ある時点」での割合なので、定期採用をしていない中小企業では算出は難しいかもしれません。その場合は「そもそも女性の募集・採用に積極的か」という視点から自社を見つめ直してください。意外とこの視点が欠けていて、優秀な女性をみすみす逃している場合も往々にしてあったりします。
②正社員に占める女性従業員の割合(女性正社員率)
③管理職に占める女性従業員の割合(女性昇格比率)
②は女性に長期にわたって中核的人材として活躍してもらっているか、③はさらに指導的地位として活躍してもらっているかについて考える基礎となります。特に③は、ジェンダーギャップ指数における「経済」分野の「管理的職業従事者の男女比」が133位と世界最低レベルにありますので、日本の女性活躍の最大の問題点と言えるでしょう。管理的職業に占める女性割合が高い企業というのは、希有な存在ではあると思います。
だからこそ、女性管理職の育成は、女性にとって希少価値のある魅力的な企業となるための「投資」として大きな効果が見込めるはずです。
とはいうものの、女性が管理職として活躍できない理由は企業にだけでなく、家庭にもあることが多いのが正直なところで、ここが非常に悩ましい点です。 既婚女性の場合、家事負担の大きさが管理職としての責任を果たせない理由となり、昇進意欲を阻害してしまうことも多々あります。
企業が家庭内の役割分担にまで立ち入ることはできませんので、家事負担をしている女性の現状を踏まえて、それでもなお管理職として活躍もらうためにどのような配慮ができるかを、男性従業員も含めて社内で話し合う風土作りから始めていくべきでしょう。
この時に、企業の経営者や人事労務担当者の方々には、自社の将来のため女性に活躍してもらいたいという強い思いを持って話し合いに臨んでいただきたいものです。
④女性従業員の平均賃金
最近注目され、女性活躍推進法で従業員301人以上の企業には開示も義務づけられている男女の賃金の差異に関する項目です。単に男女間の賃金を平均値で比べるのではなく、たとえば同一労働の場合の男女の賃金格差の有無を見てみるなど、きめ細やかな検討が必要でしょう。
当然のことですが、男性と変わらずしっかりとした賃金水準で女性が働いているのならば素晴らしいことですから、それを企業として積極的にアピールするようにしてください。
⑤女性従業員の月平均残業時間
⑥女性従業員の有給休暇取得状況
⑦女性従業員の育児休業取得率
⑧非正規女性従業員の正社員転換状況
これらは女性の「働き方」の問題です。⑤⑥⑦は労働時間や休日・休暇に関するものですが、「働き方」は「休み方」と表裏一体の関係にありますので、女性が休むべきときにしっかり休めているか、残業時間の点も含めてしっかりと検討してください。こちらも女性のワークライフバランスに配慮できているならば、求人等でしっかりアピールすべきです。
⑧は形式的に制度が設けられているだけでなく、実際に正社員雇用に転換できているかなどについて再検討してください。
⑨女性従業員の平均勤続年数
⑩退職者に占める女性従業員の割合
4.女性活躍推進は「昭和からの宿題」
明治維新以来、日本は欧米諸国を範として追いつけ追い越せの精神で経済発展を目指し続けました。昭和になり、戦後の高度経済成長を成し遂げて経済大国となった後、日本は見習うべき目標を失ってしまったのが、「失われた30年」とも呼ばれる平成不況の原因の1つだと指摘されています。ですが、本当は「女性活躍」という見習うべき目標がまだ残されていたのです。
1985年(昭和60年)に男女雇用機会均等法が成立しました。それでも昭和の世の中にあった女性差別的な働き方(働かせ方)はなかなか改まらず、1997年(平成9年)に男女雇用機会均等法は大幅な改正が行なわれました。
しかしながら、ジェンダーギャップ指数を見てもわかるように、まだまだ女性活躍が実現しているとは言えません。日本はなぜか女性活躍については欧米諸国を見習わず、「昭和からの宿題」が依然として残ったままなのです。
≫参考:『【平成の労務】#03 昭和→平成→令和における労務の変化 』 もちろん、欧米諸国の真似や後追いばかりではいけませんが、女性活躍については冒頭でもお伝えしたように、企業の「伸びしろ」と積極的に捉えて取り組むべきです。
VUCA(不確実性)の時代への対策として、確実にできることへの対応は済ませておくということは本連載で何度かお伝えしていることですが、女性活躍推進もまたその1つです。
政府は女性活躍推進法を制定し、前述のように男女の賃金の差異について従業員301人以上の企業には公表を義務づけています。
ある程度の企業規模に限定するのは対応の困難さを考えると当然ではあります。しかし、「従業員○○○人以上」という言葉は、時として「うちの会社は○○○人に達してないから関係ない」という思考停止のツールとなってしまう危険性があります。
女性活躍は、公表の有無や企業規模と関係なく、人材・組織マネジメントにおいて考え続けなければならない重要課題です。
同時に、男性の新たな活躍の可能性も視野に入れて女性活躍を推進してほしいところです。迫り来る「2040年」を女性にも男性にも魅力的な企業として迎えられるように、日々の人事労務管理を改善し続けて「昭和からの宿題」に答えを出しましょう。