1.フリーランス新法とは?
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が2023(令和5)年5月に公布されました。「フリーランス・事業者間取引適正化等法」という別名があるため、「フリーランス新法」(以下「新法」といいます)とも呼ばれています。新法では、業務委託をする側に対し、取引条件の明示、給付(委託した業務の成果物・役務)を受領した日から原則60日以内での報酬支払い、ハラスメント対策のための体制整備等を義務として課すなどして、フリーランスの保護を図ることになりました。
2.フリーランス新法の施行に備えてまず理解しておくべきこと
気になる新法の施行日は「公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日」なのですが、その政令がまだ定められていないため未定です。今回は新法を理解する第1段階として、新法が対象とする「事業者」とは何なのかと、発注する側に課される義務のうちの一部について説明しておきます。
(1)特定受託事業者(いわゆる「フリーランス」)
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次のいずれかに該当するものをいいます(新法2条1項)。①個人であって、従業員を使用しないもの
②法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
①が典型的なフリーランスですね。②はいわゆる「1人会社」のことで、新法では個人事業主以外も保護の対象になっているということです。
加えて、「特定受託業務従事者」という概念も新法には定められています。これは、①の個人そのもの、または②の法人の代表者を意味します(新法2条2項)。
(2)業務委託事業者(仕事を依頼する側)
新法によって義務を課される対象となる「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいいます(新法2条5項)。さらに、業務委託事業者であって、次のいずれかに該当するものを「特定業務委託事業者」といいます(新法2条6項)。
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用するもの
(3)新法における業務委託とは
以上の定義から、中小企業は原則的には特定業務委託事業者ということになります。その中小企業が特定受託事業者(フリーランスまたは1人会社)に業務委託をする場合には、新法の適用対象となります。
その業務委託の内容は、「物品の製造、情報成果物の作成または役務の提供」(新法2条3項)と非常に幅広く、ほとんどすべての業務委託が当てはまるといってもよいでしょう。
(4)業務委託をする側の義務
業務委託をする側(発注者)の義務は、①給付内容等の明示、②支払期日に関する規律、③特定受託事業者の利益を害する行為の禁止の3つに分かれます。業務委託事業者 | 特定業務委託事業者 | |
①給付内容等の明示 | ○ | ○ |
②支払期日に関する規律 | × | ○ |
③利益を害する行為の禁止 | × | ○ |
①は、「給付の内容」「報酬の額」「支払期日」と公正取引委員会規則で定めるものを、書面または電磁的方法で明示することが求められています(新法3条)。
②は、特定業務委託事業者に関する義務で、給付を受領した日から起算して60日の期間内の、できる限り短い期間内で定められた支払期日までに報酬を支払う必要があります(新法4条1項など)。
③も特定業務委託事業者に課せられた義務で、政令で定める一定期間以上行う業務委託の場合に、フリーランス等の利益を害する受領拒否、報酬の減額等の行為が禁止されます(新法5条)。
その他の義務などの詳細については、新法に関する各種政令や省令が出された後で改めてお伝えする予定です。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案
(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/dai1/siryou1.pdf
(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)の概要
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/freelance/dai1/siryou1.pdf