1.ISO30414を理解するために必要な「人的資本」の基礎知識
「ISO30414」は、ISO(国際標準化機構)が定めた人的資本に関する情報開示のガイドラインです。最近、「人的資本」や「人的資本経営」という用語が普及しつつあり、それとともにISO30414への注目度も上がっています。
ISO30414について理解するために、人的資本について、まずご説明します。
人的資本とは、個人が持つ知識や技能など、付加価値の源泉となる資本のことです。
この概念は1960年代に経済学者シュルツが提唱し、人への投資が経済成長に大きく寄与することを示しました。
人的資本の反対概念が物的資本で、生産設備などの目に見える資産のことを指し、有形資産ともいいます。
かつては有形資産が企業価値を表す重要な要素とされてきましたが、現代のIT化・デジタル化の進展により、知的財産権や人の知識や技能といった無形資産が企業価値を左右するようになりました。
2020年には、米国の株価指数S&P500を構成する企業の企業価値に占める無形資産の割合が90%に達しましたが、日本の日経平均株価を構成する企業では30%程度にとどまっています。
この違いは、日本が無形資産である人的資本に対して積極的な投資を行なってこなかったことが原因で、「失われた30年」とも呼ばれる経済の低迷を招いたと指摘されています。
2.人的資本経営とは?
日本政府は2023年3月期の決算から上場企業に対して非財務情報の可視化を義務づけており、その中には人的資本に関する情報も含まれています。非財務情報とは財務諸表で開示される情報以外の情報のことで、無形資産である人的資本が含まれます。
用語 | 説明 | 対義語 |
非財務情報 | 財務諸表(貸借対照表等)で開示される情報以外の情報 | 財務情報 |
無形資産 | 触れることができない(物理的な形状のない)資産 | 有形資産 |
人的資本 | 個人が持つ知識や技能など、付加価値の源泉となる資本 | 物的資本 |
これが「人的資本経営」と呼ばれるもので、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方です。
中小企業においても、人的資本に関する情報を意識することは重要です。
今後、人的資本に関する関心や注目が高まる中で、取引先の金融機関等や人材採用において、人的資本に関する情報を求められることが増えるでしょう。
人的資本に関する情報の開示が不十分だと、就職活動中の学生や転職希望者からの応募が減る可能性もあります。
3.ISO30414とその活用法とは?
政府は2022年に「人的資本可視化指針」を発表しましたが、中小企業がこれを参考にすることが難しい場合もあります。そこで注目したいのがISO30414です。
ISO30414は11の領域に分かれ、それぞれに細かい指標が設定されています。
この11の領域は、コンプライアンスと倫理、コスト、ダイバーシティ、リーダーシップ、組織風土、健康・安全・幸福、生産性、採用・異動・離職、スキルと能力、後継者計画、労働力となっています。
1. | コンプライアンスと倫理(Compliance and Ethics) |
2. | コスト(Costs) |
3. | ダイバーシティ(Diversity) |
4. | リーダーシップ(Leadership) |
5. | 組織風土(Organizational Culture) |
6. | 健康・安全・幸福(Organizational Health, Safety and Well-Being) |
7. | 生産性(Productivity) |
8. | 採用・異動・離職(Recruitment, Mobility and Turnover) |
9. | スキルと能力(Skills and Capabilities) |
10. | 後継者計画(Succession Planning) |
11. | 労働力(Workforce Availability) |
たとえば、大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社) のレポートは非常に読みやすく、人的資本に対する現状と将来の方向性がよくわかります。
ISO30414は、人的資本に関する情報を体系的に管理・開示するための重要なガイドラインです。
中小企業においても、このガイドラインを参考にすることで、人的資本経営を推進し、企業価値の向上を図ることができます。
人的資本に関する情報の適切な管理と開示は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
ISO30414については、また機会を改めて詳細をお伝えしようと思います。