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「人的資本経営」におけるKPI設定 その①

2024年8月30日更新

社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」

「人的資本経営」におけるKPI設定 その①

[有馬美帆氏(特定社会保険労務士)    ]
このコラムでもたびたび取り上げていますが、人的資本経営とは、『人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方』のことです。

この人的資本経営を、中小企業の人材・組織マネジメントに取り入れる際に検討していただきたいのが「KPI設定」です。
今回は、KPI設定の基本についてお伝えします。

1.KPIとは?

KPI(Key Performance Indicator)とは、「重要業績評価指標」のことです。
組織の目標達成のための指標で、この指標を定めることで、目標と現状の差を把握しつつパフォーマンスの改善・向上を図ることが可能となります。

このKPIは、①財務視点、②顧客視点、③業務視点、④学習視点などの要素から定めることが可能です。
このうち、①財務視点は定量的に測定しやすいものですので、中小企業においても「KPI」という言葉こそ用いなくとも、各種の業績評価指標として用いられていると思います。
それに対して、②顧客視点は顧客満足度やクレーム件数など、③業務視点は生産性、残業時間など、④学習視点は研修受講率や資格取得数などの従業員の成長に関わるもので、財務視点に比べると測定に手間がかかるものが多いといえます。

2.人的資本経営におけるKPI設定とは

近年、人的資本経営が注目されるようになり、人材を「資本」として活用するためのKPI設定の必要性もまた注目されるようになっています。
上記の各種視点でいえば、④学習視点が資本である人材への投資ということで人的資本経営に一番関係が深いといえますが、③業務視点も人材を効率的に活用するという点ではやはり関係があります。

そして、人的資本経営ではKPI設定のためのさらなる要素として、⑤従業員視点を考慮することが重要になります。
「資本」である人材の価値を最大限に引き出すためには、従業員が自社に働き続ける価値を見出しているか、担当する職務に対して熱意を持っているかなどの、コミットメントやエンゲージメントを把握する必要があるからです。
特に中小企業では人材採用に困難を抱えている企業も多いため、「今いる人材に長く活躍してもらう」という視点は欠かせません。
その意味でも⑤従業員視点でのKPI設定の必要性は特に重要といえるでしょう。
また、企業の成長には人材の成長が欠かせず、人材の成長が企業の成長をもたらすという点で、リスキリングやリカレントなどに関わる④学習視点のKPI設定も同じく重要です。

3.KPIは企業の目的達成のための「手段」

人的資本経営の観点から特に重要な⑤従業員視点のKPIを設定する場合の対象は、「手持ちの資料から集計できるもの」と「新たに測定しなければならないもの」に大別されます。まずは、これを意識することから始めてみてください。

「手持ちの資料から集計できるもの」の例としては、従業員の定着率・離職率やダイバーシティの進捗度などが挙げられます。
企業である以上は従業員に関する情報を把握しているわけですから、それを改めて整理し直せば良いわけです。
定着率や離職率は改めて集計・計算しなくても、肌感で把握されていらっしゃる経営者や人事労務担当者の方も多いと思います。

それに対して、「新たに測定しなければならないもの」としては、コミットメント、エンゲージメント、従業員満足度などが挙げられ、測定が必要なうえに専門的な知識も必要になるため、基本的には何らかのシステムを利用するなどの費用がかかります。
これらをKPIとする場合は、費用対効果を考える必要があります。

くれぐれも注意していただきたいのは、KPIは目標であって目的ではないということです。
目的と手段を混同してしまいがちなのですが、KPIは経営目的を達成するための、あくまで「手段」なのです。

体重を量ってみて、減っていれば良しというわけではなく、正しい食生活や運動習慣による減少である必要があります。
体重減少は目標ですが、体重測定は健康維持という「目的」達成のための手段なのです。
それと同じように、KPI設定は「目的」あってのことになります。

次回は、人的資本経営という「目的」のために、どのように「手段」としてのKPIを設定していくか、具体例を交えて、さらに詳しくお伝えします。
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連載「社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」」

執筆者プロフィール

有馬美帆氏(特定社会保険労務士)   
社会保険労務士法人シグナル 代表社員。ISO30414リードコンサルタント。2007年社会保険労務士試験合格、社会保険労務士事務所勤務を経て独立開業、2017年紛争解決手続代理業務付記。IPO支援等の労務コンサルティング、就業規則作成、HRテクノロジー導入支援、各種セミナー講師、書籍や雑誌記事、ネット記事等の執筆を中心に活動。著作として、『M&A労務デューデリジェンス標準手順書』(共著、2019年、日本法令)、『起業の法務-新規ビジネス設計のケースメソッド』(共著、2019年、商事法務)、『IPOの労務監査 標準手順書』(共著、2022年、日本法令)など。
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