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「人的資本経営」におけるKPI設定 その② 「健康経営優良法人」を目指して

2024年9月30日更新

社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」

「人的資本経営」におけるKPI設定 その② 「健康経営優良法人」を目指して

[有馬美帆氏(特定社会保険労務士)    ]
前回は、人的資本経営におけるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)設定の総論的なお話をしました。
その際に、KPIは人的資本経営という「目的」達成のための「手段」であるとお伝えしました。
この観点から、今回具体例としてご紹介したいのが「健康経営」です。

1.人的資本経営のための「健康経営」

健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです(経済産業省の定義)。
≫ 経済産業省:『健康経営 』 参照

人的資本経営は、人材という「資本」に投資することでその価値を最大限に引き出す経営ですが、企業が従業員の健康確保のための施策を実施することもまた、重要な投資といえます。

プレゼンティーズムという言葉をご存じでしょうか。
欠勤には至っていないものの、健康問題が理由で仕事の生産性が低下している状態のことをいいます。
これに対して、健康問題が理由で欠勤している状態をアブセンティーズムといいます。
たとえば、ストレスによるメンタルヘルス不調が原因の遅刻・早退や欠勤、さらには休職といった状態はアブセンティーズムです。
一方、同じくストレスによるメンタルヘルス不調者でも、出勤していながら仕事に打ち込めないケースですと、プレゼンティーズムとなります。

心身の不調は従業員の生活の質(Quality of Life:QOL)に関わる話ですが、同時に仕事の質(Quality of Work:QOW)に関わる話でもあります。
健康経営は、従業員の健康確保によって仕事のパフォーマンスを引き上げ、人材の価値を引き出すものであり、KPI設定の参考にもなるものです。

2.企業全体での健康づくりのための「健康企業宣言」

「健康企業宣言」をまだされていない企業は、健康経営への取り組みの第一歩として行なってみましょう。
健康企業宣言とは、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合を通じて、健康優良企業「銀の認定」「金の認定」を目指して、企業全体で健康づくりに取り組むことを宣言することです。
≫ 全国健康保険協会:『健康企業宣言とは 』 参照

「銀の認定」と「金の認定」の違いは、銀が「STEP1」として職場の健康づくりに取り組む内容、金が「STEP2」として安全衛生にまで取り組む内容となっていることです。
銀の認定 STEP1 「100%健診受診」と「特定保健指導の活用」の宣言
①健診結果の活用、②健康づくりの環境整備、③食、④運動、⑤禁煙、⑥心の健康の6項目に取り組むこと
金の認定 STEP2 ①健診・重症化予防、②健康管理・安全衛生活動、③メンタルヘルス対策、④過重労働防止、⑤感染症予防、⑥健康経営の6項目に取り組むこと
この健康企業宣言の「宣言」自体は、チェックシートで課題を見つけ、応募用紙をFAXするだけと簡単です。
この課題がKPIともなるわけです。
宣言後6か月以上の取り組み後に、実績説明シート、実施結果レポート、そして確認書類(エビデンス)を提出して、80点以上の評価を得れば、「銀の認定」が得られます。
銀の認定を得られたら、健康優良企業ロゴマークが使用できる特典があります。
さらに、STEP2の「金の認定」へと進むことが可能となります。

詳しくは「実施結果レポート 」をご覧いただいて、現状の自社が80点をクリアできそうかどうかご確認ください。

3.「健康経営優良法人」とは

「銀の認定」を得られたら、「健康経営優良法人」の認定を受けることも検討してみてください。
健康経営優良法人認定制度とは、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから社会的な評価を受けることができる環境を整備することを目的に、日本健康会議が認定する顕彰制度です。

この認定を受けるには、先ほどの「健康企業宣言」に参加していることが前提となりますし、認定のためのハードルも高いのが難点です。
しかし、認定を受けることをKPIとして設定すれば、従業員の健康と安全を確保するうえでの独自の指標を別途考案する必要がないという大きなメリットがあります。

「健康経営優良法人2024」の中小規模法人部門に認定された企業は16,733法人です。
総務省・経済産業省の「令和3年経済センサス」によると、中小企業の数は約336万社とのことですので、健康経営優良法人の認定を受けている中小企業は100分の1にも満たないことになります。
それだけに、認定を受けることは従業員のQOLやQOW向上のためだけでなく、求職者などに対する大きなアピール材料にもなるでしょう。
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連載「社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」」

執筆者プロフィール

有馬美帆氏(特定社会保険労務士)   
社会保険労務士法人シグナル 代表社員。ISO30414リードコンサルタント。2007年社会保険労務士試験合格、社会保険労務士事務所勤務を経て独立開業、2017年紛争解決手続代理業務付記。IPO支援等の労務コンサルティング、就業規則作成、HRテクノロジー導入支援、各種セミナー講師、書籍や雑誌記事、ネット記事等の執筆を中心に活動。著作として、『M&A労務デューデリジェンス標準手順書』(共著、2019年、日本法令)、『起業の法務-新規ビジネス設計のケースメソッド』(共著、2019年、商事法務)、『IPOの労務監査 標準手順書』(共著、2022年、日本法令)など。
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