≫ 連載第24回:『「人的資本経営」におけるKPI設定 その② 「健康経営優良法人」を目指して』参照
記事公開後に「他にも何か活用できるものはないですか?」というご質問を多数いただきましたので、今回も認定制度についてお伝えします。
1.2つの「一般事業主行動計画」
「一般事業主行動計画」(以下、主に「行動計画」といいます)というものがあります。実はこの行動計画には2種類あり、それぞれ別の法律に基づくものです。
両者の違いがわかりにくい面がありますので、整理しておきます。
法律名 | 施行 | 一般事業主行動計画 | 策定等の義務 |
次世代育成支援対策推進法(次世代法) | 2005年4月 時限立法 (2035年3月31日まで) |
従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たり、(1)計画期間、(2)目標、(3)目標達成のための対策とその実施時期を定める | 常用労働者101人以上の企業 |
女性活躍推進法(女活法) | 2016年4月 時限立法(2026年3月31日まで) |
自社の女性活躍に関する状況把握、課題分析を行ない、その結果を踏まえて女性活躍に関する(1)計画期間、(2)数値目標、(3)取組み内容、(4)取組みの実施時期などを定める | 常用労働者101人以上の企業 |
そのため、すべての中小企業が対象ではないように思われるかもしれませんが、100人以下の企業にも、義務ではなくても努力義務は課せられていることに注意してください。
また、義務づけの基準も次第に引き下げられています。
努力義務の対象である中小企業の経営者や人事労務担当者の方々も、人的資本経営におけるKPI設定の一つとして、ぜひ2つの行動計画の策定に取り組んでいただきたいと思います。
次世代育成支援対策支援法(次世代法)は10年間の時限立法として制定されましたが、2024年に再延長されています。
また、女性活躍推進法(女活法)も10年間の時限立法の期限が迫っており、厚生労働省の「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が10年間の延長を提言しています。
今回は、2つの行動計画のうち、次世代法についてお伝えします。
2.「くるみん」認定とは?
次世代法に基づき行動計画を策定し、そこに定めた目標を達成して一定の基準を満たした企業が申請を行なうと、「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けることができます。この「くるみん認定」には3種類あります。
基本となる「くるみん認定」、くるみん認定を受けた後で高い水準の取組みを継続的に行なっている企業向けの「プラチナくるみん認定」、そして2022年から新たに加わった「トライくるみん認定」です。
トライくるみん認定は、くるみん認定とプラチナくるみん認定の基準が引き上げられた際に、引上げ前のくるみん認定に相当する基準を残したものです。 それぞれの認定を受けた企業は、認定に応じたロゴマークを使用することができます。
くるみんマークの認知度は年々高まっており、求職者に対して職場環境の良さをアピールしたり、企業イメージの向上に役立てたりするなど、さまざまなメリットがあります。
3.次世代法の行動計画とは?
このコラムで何度も強調していることですが、中小企業における人的資本経営には「今いる人材に長く活躍してもらう」という視点が絶対に不可欠です。従業員が自社で働き続ける価値を見出せるかという従業員視点のKPI設定を考える際に、「子育てサポート企業」を目指すことは非常に有効なことと考えます。
くるみん認定に向けて、実際にどのような行動計画を策定すべきかについては、厚生労働省サイトの「一般事業主行動計画の策定・届出について 」というページをご覧いただきたいのですが、なかでもまず「モデル行動計画 」の数々を熟読されることをおすすめします。
12種類のモデル計画を一つにまとめたPDFがありますので、こちらをぜひご覧ください。
「子育てサポート」といっても非常に幅が広く、その企業の実情を反映した個性ある行動計画を策定できることがご理解いただけるはずです。
「子育てサポート」は人的資本経営に関する情報開示のガイドラインであるISO30414には直接の項目としては登場しません。
しかし、子育てに対する企業のサポートの有無や程度は、採用コスト・離職コスト・ダイバーシティ・エンゲージメント・コミットメント・従業員満足度・定着率・離職率など、ISO30414の多種多様な項目に間接的に多大な影響を及ぼすものです。
「くるみん認定」をKPIの一つに設定することは、中小企業における人的資本経営の推進に大きな力となるでしょう。