前回は、改正育児・介護休業法、高年齢者雇用安定法、改正雇用保険法の概要を紹介しました。
≫ 連載第27回:『2025(令和7)年の注目すべき法改正の概要』参照
今回は、それら以外の2025年(令和7年)以降に法改正が予定または議論されている主な事項についてお伝えします。
1. | カスタマーハラスメント対策の義務化 |
2. | 所得税に関する「103万円の壁」の見直し |
3. | 社会保険に関する「106万円の壁」撤廃へ |
4. | 厚生年金保険料の上限引き上げ |
5. | 労働基準法の見直し |
1.カスタマーハラスメント対策の義務化
厚生労働大臣の諮問機関の1つに「労働政策審議会(労政審)」があります。文字通り労働政策の重要事項について調査審議し、厚生労働大臣に意見等を述べる存在です。
この労政審で2024年(令和6年)末に「カスタマーハラスメント(カスハラ)」について企業に対策を義務づける案が示され、厚生労働省は2025年(令和7年)の通常国会に提出する労働施策総合推進法の改正案にカスハラ対策を盛り込む方向です。
地方自治体レベルでは、東京都で2025年(令和7年)4月1日から、カスタマーハラスメント防止条例(カスハラ防止条例)としては全国初となる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されます。
2.所得税に関する「103万円の壁」の見直し
いわゆる「年収の壁」のうち、所得税の納税義務に関わるのが「103万円の壁」です。政府・与党はこの金額を引き上げる内容の税制改正法案を2025年(令和7年)の通常国会に提出する予定です。
現時点の改正法案は令和7年度税制改正の大綱に明記された「123万円」への引き上げとなっていますが、政府・与党は「150万円」への引き上げで調整に入ったとの報道もあり、国会での議論でさらなる引き上げの方向で修正される可能性があります。
「103万円の壁」はパートタイマーやアルバイトの「就業調整(働き控え)」を生む原因となっていることが長らく指摘されてきました。
年収103万円を超えた本人が、配偶者や親の税法上の扶養親族となっていた場合は、その扶養親族でいられなくなってしまうため、「103万円」の直前で就労を止めてしまうからです。
人手不足が深刻化する現在、就業調整を回避する必要性が高まっています。
そこで政府は学生アルバイトの就業調整対策として、19歳から22歳までの大学生年代の子を扶養する親について、子の年収が150万円までなら現状と同じ税法上の優遇が受けられる「特定親族特別控除」を設ける予定です。
さらに150万円を超えても段階的に優遇が減る仕組みを設けることで、親の手取り収入が激変しないようにする配慮を行なうことも予定されています。
この「特定親族特別控除」は所得税については2025年(令和7年)から、住民税については2026年(令和8年)から実施されますので、中小企業にとっては学生アルバイトに今まで以上に活躍してもらえる可能性が広がります。
3.社会保険に関する「106万円の壁」撤廃へ
「年収の壁」のうち、一定規模以上の企業に勤める従業員に社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が生じるのが「106万円」の壁です。なぜ106万円かというと、社会保険の加入要件のうちの1つとして、給与が月額88,000円以上であること(「賃金要件」といいます)があり、この金額を12倍した年間の額が約106万円となるためです。
社会保険の加入は将来の年金額増加などのメリットもありますが、社会保険料の負担をデメリットに感じてパートタイマー・アルバイトなどの就業調整が起きる原因ともなっています。
そこで厚生労働省は、この賃金要件をおおむね3年以内に撤廃する予定です。
また「一定規模以上の企業」というのは、2024年(令和6年)10月から従業員数51人以上(「企業規模要件」と呼ばれます)となっています。
厚生労働省は企業規模要件を2027年(令和9年)10月に「21人以上」とし、さらに2029年(令和11年)10月には撤廃する方向です。
現在、従業員数50人以下の企業は、この「106万円」の壁の撤廃を見据えて対策を講じる必要があります。
4.厚生年金保険料の上限引き上げ
厚生年金保険は、会社員や公務員が加入する公的年金制度です。そして、厚生年金保険は加入している人の報酬(賃金)に応じた等級に基づいた標準報酬月額に基づいて保険料が決定されます。
現在、この等級は32等級ありますが、最高の32等級は標準報酬月額650,000円(報酬月額が635,000円以上)で、これ以上にどれだけ高い報酬をもらっていても、厚生年金保険料は月額59,475円(折半額)の負担にとどまります。
そのため、厚生労働省は負担能力に応じた負担を求める見地から、2025年(令和7年)の通常国会に標準報酬月額の新たな上限を750,000円とする改正法案を提出する予定です。
5.労働基準法の見直し
2026年(令和8年)には労働基準法の改正が予定されています。 こちらは連続勤務日数を最長13日間に制限することや、副業・兼業に関して本業との労働時間を通算する制度の廃止などが予定されています。以上は中小企業にとっても重要な法改正事項であるため、人事労務部門での対応策を詳しく解説していく予定です。