≫ 連載第28回:『2025年の人事労務面に関する展望』参照
今回はそのうちの1つである「カスタマーハラスメント対策の義務化」について具体的にお伝えします。
1.カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が義務化へ
厚生労働大臣の諮問機関の1つに「労働政策審議会(労政審)」があります。文字通り労働政策の重要事項について調査審議し、厚生労働大臣に意見等を述べる存在です。
この労政審で2024(令和6)年末に「カスタマーハラスメント(カスハラ)」について企業に対策を義務づける案が示され、厚生労働省(厚労省)は労働施策総合推進法の改正案にカスハラ対策を盛り込む方向です。
すでに厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル 」を作成しており、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」という定義付けがされています。
労政審の定義は、①顧客等の利害関係者の、②社会通念上相当な範囲を超えた言動により、③労働者の就業環境が害されること、というものでマニュアルの定義と同様です。
今回予定される法改正では、カスハラから従業員を保護する義務を労働施策総合推進法に盛り込むとともに、法改正後には指針(ガイドライン)も策定される予定です。
2.企業がカスハラ対策で具体的に取るべき行動は?
「労働施策総合推進法」の略称は何でしょうか?実は、これ自体が略称で、正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」といいます。
この法律にはもう1つ略称があります。
それが「パワハラ防止法」です。
2019(令和元)年に改正され、2020(令和2)年6月1日に施行された改正労働施策総合推進法で職場のパワーハラスメント(パワハラ)防止措置が義務づけられたことから付いた略称です(中小企業は2022(令和4)年3月31日まで努力義務)。
カスハラ防止措置も同じ法律に盛り込まれる予定ですから、企業のカスハラ対策を「先回り」して考える際には、労働施策総合推進法のパワハラ防止措置を改めて見直すことも大きな意義があります。
現在、必ず求められるパワハラ防止措置は次のとおりです。
(1) | 企業の方針等の明確化と周知・啓発 |
(2) | 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制(相談窓口など)の整備 |
(3) | 職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応 |
(4) | 相談者等のプライバシーの保護、相談者の不利益取扱いの禁止 |
カスハラ防止措置が具体的にどうなるかは未確定ですが、(1)から(3)については、カスハラに置き換えてもすぐに通用する内容です。
既存のパワハラ相談窓口に、カスハラ相談窓口の機能を持たせる準備に今すぐ着手されることをおすすめします。
3.東京都の取り組みも参考に
企業の経営者や人事労務担当者の方に強く意識していただきたいのは、カスハラが「人権問題」だということです。本コラムでは人的資本経営の重要性を何度もお伝えしていますが、企業にとって最も重要な資本である従業員という人材を守ることは、人権を守るということでもあります。
従業員を中心に、お客様・取引先・地域社会・日本・そして世界と、同心円状に拡がるステークホルダーそれぞれ(に属する人)の人権を守る、という意識がこれからの企業には求められます。
理不尽なクレームや度を超えた要求から従業員の心身の安全を守ることは、たとえ法律の義務づけがなくても、企業の安全配慮義務によって求められることでもあります。
法改正を「先回り」して、企業としてカスハラ対策に真剣に取り組むことは、従業員の「いざという時に守ってもらえる」という安心感につながり、エンゲージメントも向上するはずです。
このカスハラ対策において、国よりも「先回り」しているのが東京都です。
東京都では2025(令和7)年4月1日から、カスタマーハラスメント防止条例(カスハラ防止条例)としては全国初となる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されます。
詳細については東京都産業労働局の「TOKYOノーカスハラ支援ナビ 」というサイトをぜひご覧ください。
東京都によるカスハラの定義の解説に始まり、企業が取るべき対策など非常に充実した内容となっています。
東京都以外の道府県の企業にとっても大いに参考になります。
カスハラ防止措置が労働施策総合推進法に盛り込まれることは非常に重要な前進ですが、法改正を待たずとも、企業が大切な従業員という人材を守るためにできることはあります。
その1つが就業規則でのカスハラ対策の明文化です。
この点については、ぜひ社会保険労務士にご相談いただきたいと思います。