1.オンボーディングとは?
オンボーディング(On-Boarding)とは、新規採用した人材の配置・定着・活用に関する一連の流れとそのためのプログラム(施策)のことを言います。この定義からおわかりになる通り、オンボーディングとは単なる「新人研修」のような短時間の行為を意味するものではなく、ある程度の期間の幅をもって新たな人材を組織に組み込んでいくための施策なのです。
その幅としては、入社前研修(内定者研修)から入社後6か月程度が通常とされますが、入社後1年程度の場合もあります。
2.「組織社会化」と「組織再社会化」とは?
新規採用の人材には、新卒者だけでなく中途採用者もいますが、オンボーディングの目的として、早期離職の防止や能力発揮という点は変わりません。大きく違うのは「組織社会化」を目的とするのか、「組織再社会化」を目的とするのかという点です。
組織社会化 | 個人が組織内の役割を果たすのに必要な知識やスキルを獲得するプロセス |
組織再社会化 | 個人が以前の組織を離れて、新たな組織内での役割を果たすのに必要な知識やスキルを獲得するプロセス |
わかりやすく言えば、人が組織に「なじむ」過程のことです。
新卒者対象のオンボーディングでは、二重の意味で「なじむ」ことを目的としなければなりません。
1つは、当然のことながら自社の組織文化になじむことで、もう1つは、「企業社会」全般になじむことです。
この2つは似て非なるもので、新卒者には自社の現実を理解してもらうだけでなく、取引先などを含めた社会の現実をも理解してもらわなければ、真にパフォーマンスを発揮することができません。
「組織再社会化」とは、個人が以前の所属組織を離れて、新たな組織の規範、価値、行動様式を受容するとともに、新たな組織内の役割を果たすのに必要なスキルを獲得するプロセスを言います。
こちらもわかりやすく言えば、採用前の所属組織から離れて、新たな組織に「なじむ」過程のことです。
中途採用者のオンボーディングには、企業社会全般について理解してもらうプロセスは不要ですが、企業側にも中途採用者側にも特有の難しさがあります。
自社の組織文化になじんでもらいたいわけですが、一方でかつて所属していた組織等で得た経験やスキルも活用してほしいという、二律背反のような状況に陥ってしまいがちな面もあります。
3.「コーチングの3原則」をオンボーディングの出発点に
組織社会化、組織再社会化それぞれに難しさがありますが、今回はオンボーディングに取り組む際に出発点にするとよい考え方を紹介しておきます。オンボーディングは人材・組織マネジメントを担当される方が、新規採用した人材を育成するプロセスです。
この「育成」に関しては、「ティーチング」と「コーチング」という2つのアプローチがあります。
ティーチングは目標達成に必要な知識やスキルを教える方法なのに対して、コーチングは目標達成に必要な知識やスキルが何かを自分で見つけ、自分で習得できるように支援する方法です。
どちらも人材育成には必要な方法なのですが、新規採用者の入社直後のオンボーディングに関わることになる人事部門としては、コーチングのアプローチをメインに採用したほうが、「自ら学ぶことができ、自らなじむことができる」人材を配属部署に送り出すことができてよいでしょう。
そのコーチングには次の「3原則」と呼ばれるものがあります。
インタラクティブ(双方向) | 対話を通じて気づきや成長を支援する |
テーラーメイド(個別対応) | 相手の個性に合わせて支援する |
オンゴーイング(継続性) | 一過性でないプログラムで支援する |
これは「言うは易く行うは難し」の典型例で、多くの企業では新規採用者に人事部門がいつまでも関わっていられない現実があります。
だからこそ、「オンボーディング(On-Boarding)はオンゴーイング(on going)であるべき」という原点を理解し、人事部門と配属部門の双方が、組織社会化あるいは組織再社会化について、一過性ではなく連携を取った施策を講じることができるようにしたいところです。
具体的なオンボーディングの実践に関するポイントについては、回を改めてお伝えいたします。