最終更新日:2024年9月27日
「入社前研修」とは、内定や内々定を出した入社予定者に対し、正式に入社する前に行なう社内研修のことをいいます。
入社前研修は、ビジネスマナーなどの一般的な研修、業界(業務)知識を身につけてもらうための研修、内定者同士または先輩社員や人事担当者との交流をメインとする研修など、さまざまな内容・目的のものがあります。
また、研修の実施形態も、内定者を一同に集めての集合研修のほか、Web会議システム等を用いたオンライン研修など多様なものがあります。
ここでは、入社前研修を実施する際の賃金と労災の問題について考えてみます。
(1)入社前研修の賃金の考え方
労働時間とは、一般的に、使用者の指揮命令下にあり、労務提供のために現実に拘束されている時間をいいます。
入社前研修においても、使用者の指揮命令下にあり、一定の場所に、一定の時間、一定の労務提供の目的のために拘束されていて、その時間の自由利用が保障されていない場合には、労働時間になると考えられます。
行政解釈(昭26.1.20基収第2875号、平11.3.31基発第168号)では、「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強制がなく、自由参加のものであれば、時間外労働にはならない。」としています。
自由参加は労働時間にならないということは、逆にいえば、参加が強制されていれば労働時間になるということです。
このことから考えると、入社前研修に参加するか否かが内定者の任意で、参加しなくても何ら不利益(ペナルティ)が課されない場合には、労働時間とはなりません。
一方、業務命令として参加が強制されているような場合には労働時間となり、賃金の支払いが必要となります。
次に、入社前研修が労働時間に該当する場合に、どの程度の賃金を支払えばよいのかが問題となります。
この点については、初任給が決定していれば、それをベースに時給換算して、研修時間に相当する賃金を支払うのが妥当と考えられます。少なくとも、最低賃金法が定める最低賃金額以上を支払う義務があります。
(2)入社前研修と労災保険の適用
入社前研修における労災保険の適用についても、会社の指示による強制参加かどうかがポイントとなります。
参加が強制されている場合、基本的には労働時間とみなされ、賃金の支払いが生じます。そのうえで、入社前研修中の学生が「労働者」とみなされるのは、短期のアルバイトや長期インターンシップのように、会社の指揮命令下で働く場合です。
一方で、単なる職場見学や職場体験程度であれば、基本的に労働者とはみなされないでしょう。
行政解釈(昭23.1.15基発第49号、昭57.2.19基発第121号)によると、入社前研修中に労災保険の適用が認められるためには、研修中に支払われる賃金が一般の労働者並みの賃金であること(少なくとも最低賃金法の規定を上回っていること)、実際の研修内容が本来業務の遂行を含むものであること、などが必要とされています。
入社前研修は、座学による一般的なビジネスマナーなど、会社の本来業務の遂行とは関係がないことも少なくありません。こうした研修の場合、労災保険は適用されず、実際に労災事故が発生するリスクも小さいでしょう。
一方、入社前研修に本来業務の遂行に関する内容が含まれる場合には、労災保険が適用される可能性が高くなります。
労災保険が適用されるか否か微妙なケースでは、万一に備えて、民間の保険に加入することも選択肢に入るでしょう。
なお、労災保険の適用の有無にかかわらず、入社前研修においても会社は安全配慮義務を負います。
そのため、何らかの事故が発生し、会社側に過失があれば、損害賠償等の責任が発生することに注意する必要があります。