最終更新日:2024年5月30日
毎年7月1日~7月7日は「全国安全週間」とされ、6月はその準備月間となっています。全国安全週間は、自主的な労働災害防止活動の推進を主な目的として実施されています。今年度のスローガンは、「危険に気付くあなたの目 そして摘み取る危険の芽 みんなで築く職場の安全」です。
全国安全週間に関連して、労災保険の「メリット制」「特例メリット制」について確認してみましょう。
(1)労災保険の「メリット制」とは
労災保険料を算定する際の保険料率(労災保険率)は、事業の種類(災害のリスク)に応じて、現在、1,000分の2.5~1,000分の88までの範囲で定められています。(2024年4月より料率が変更されました)
しかし、事業の種類が同じであっても、作業工程、作業環境、事業主の災害防止努力の違い等により、個々の事業場の災害発生率には差が生じます。
そこで、労災保険制度では、保険料負担の公平性の確保と労働災害防止努力の促進を目的として、労災保険率や労災保険料を上下させる制度を設けています。具体的には、労働災害の多寡に応じ、原則としてプラス・マイナス40%の範囲内で、労災保険率や労災保険料を上下させます。これが「メリット制」です。
要するに、労働災害の発生が少ない事業場では労災保険率や労災保険料が基準より低くなり、労働災害の発生が多い事業場では基準より高くなるということになります。
なお、ここでは詳細には触れませんが、メリット制のしくみは継続事業、単独有期事業、一括有期事業で異なります。参考までに、各事業の定義は次のとおりです。
継続事業 |
事務所、工場、商店等、事業の期間が予定されない(つまり無期限に継続する)事業 |
単独有期事業 |
大規模な建設工事等で、事業の期間が予定される事業 |
一括有期事業 |
建設の事業や立木の伐採の事業で、2以上の小規模な単独有期事業が一括されて、全体が一つとみなされる事業 |
(2)メリット制の対象事業の要件
継続事業では、「事業の継続性」と「事業の規模」に関する要件を同時に満たしている場合にメリット制が適用されます。
「事業の継続性」要件 |
メリット制が適用される保険年度の前々保険年度に属する3月31日(基準日)において、労災保険の保険関係成立から3年以上が経過していること |
「事業の規模」要件 |
基準日の属する保険年度の前々保険年度から遡って連続3保険年度中の各年度において、使用労働者数が一定の基準を満たしていること |
(3)メリット制の適用時期
継続事業のメリット制が適用される時期は、連続する3保険年度の最後の年度(基準日の属する年度)の翌々保険年度です。
たとえば、2020年度、2021年度、2022年度が連続する3保険年度である場合には、2024年度にメリット制が適用されます。
メリット制による労災保険率は、連続する3保険年度中の保険料に対する保険給付の割合(メリット収支率)に基づいて決定されます。
上図でいえば、2020年度、2021年度、2022年度の保険料と保険給付をもとにメリット収支率を算定し、プラス・マイナス40%の範囲内で、2024年度の労災保険率が割引または割増されることになります。
(4)労災保険の「特例メリット制」とは
中小企業の労働災害の防止活動を促進するため、所定の安全衛生措置を講じた中小事業主を対象として、特別にプラス・マイナス45%の範囲内で労災保険率や労災保険料を上下させる制度があります。これが「特例メリット制」です。
特例メリット制は、次の要件をすべて満たす事業が対象となります。
- メリット制が適用される継続事業であること(建設の事業と立木の伐採の事業を除く)
- 厚生労働省令で定める安全衛生措置を講じたこと
- 中小事業主であること
- 安全衛生措置を講じた保険年度の次の保険年度の初日から6か月以内に特例メリット制の適用を申告していること
特例メリット制の適用を申告した場合、安全衛生措置を講じた保険年度の翌々保険年度から3年間、特例メリット制による労災保険率が適用されます。
また、特例メリット制による労災保険率の増減は、継続事業と同様のメリット収支率を基準として行なわれます。
なお、コロナ下において、新型コロナウイルス感染症(感染症法上の「2類相当」)に関連する給付は、全業種においてメリット制の対象外とされ、労災保険料に影響を与えない特例が設けられていました。
しかし、2023年5月8日から「5類感染症」に変更されたことにより、5類感染症への変更後に労働者が発病した場合の労災保険給付については、メリット制による労災保険料への影響があり得るとされています。