2021(令和3)年3月1日に施行された「改正会社法」。今回の改正は、株主総会や取締役等に関するルールや子会社化の方法など多岐にわたって見直されており、大企業だけでなく中小企業にも影響を与える内容です。経営層や法務・総務部門の担当者はもちろん、ビジネスパーソンが押さえておきたい重要ポイントをまとめました。
※本稿は『令和元年改正法対応 図解 会社法のしくみ』(中島 成・著)をもとに⼀部抜粋・再編集しています。
会社が守るべき法律ルール
「会社法」は、979条から成る法律で、会社の設立、組織、運営、管理について定められています。いわば、経済活動を行う会社が守るべきルールです。
歴史はまだ浅く、2005(平成17)年に、それまで会社に関して規定していた商法の一部(第2編)と有限会社法、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律が「会社法」として1つにまとめられ、2006(平成18)年に施行されたのが始まりです。細則として、会社法施行規則、会社計算規則などもあります。
この会社法が5年振りに改正され、2021(令和3)年3月1日に施行されました(以下「改正法」)。今回の見直しは多岐にわたり、大企業だけでなく、中小企業にも影響を与える内容です。ここでは「株主総会」「取締役等」「その他」に分けて、それぞれのポイントをみていきましょう。
*会社法の改正ポイント*
改正法=会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)
※以下のうち、(1)株主総会資料の電子提供および(14)会社支店所在地における登記義務廃止については、システムを整える関係で、公布の日(令和元年12月11日)から3年6か月を超えない時期に施行される予定です。
【株主総会に関するルール】
(1)株主総会資料の電子提供(インターネットでの提供)※
(2)株主が株主総会に提案できる議案数の制限
(3)議決権行使書面の閲覧制限
【取締役等に関するルール】
(4)取締役の個別報酬決定方針の定め方
(5)株式報酬
(6)補償契約
(7)役員等賠償責任保険契約(D&O保険契約)
(8)取締役ら役員への責任追及訴訟での和解
(9)社外取締役への業務執行委託
(10)上場会社等に1人以上の社外取締役設置義務化
【その他のルール】
(11)株式交付による子会社化
(12)社債管理補助者
(13)成年被後見人等の取締役等欠格事由からの削除
(14)支店所在地における登記義務廃止※
株主総会に関するルール
改正(1) 株主総会資料の電子提供(インターネットでの提供)
今回の改正により、株主の個別の承諾を得なくても、株主に対し、インターネット(自社ホームページ等)で事業報告や計算書類等の株主総会資料を提供できることになりました。
インターネットで提供するのであれば、印刷費用等が省けますし、より早く株主に情報を提供することが可能となります。このことを定款に定め、株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主にそのURLを書面により通知することで、会社は株主総会資料を提供したことになります。ただし、インターネットを利用することが困難な株主のため、株主が会社に資料を書面で提供するよう請求した場合は、会社は書面を交付しなければなりません。
上場会社は、この制度を利用することが義務づけられていますが、中小企業を含む非上場会社(以下「非上場会社」)は義務ではなく、この制度を利用することが「できる」となっています。
改正(2) 株主が株主総会に提案できる議案数の制限
総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する等の株主は、株主総会の日の8週間前までに会社に通知することで、株主総会に議案を提出できます。しかし、1人の株主から非常に多くの提案がなされるなど濫用される場合もあったため、改正法では、1人の株主が1つの株主総会で提案できる議案の数を10個までに制限しました。このルールは、上場会社・非上場会社を問わず適用されます。
改正(3) 議決権行使書面の閲覧制限
株主は、株主総会に提出された議決権行使書面の閲覧請求ができます。
改正法は、議決権行使書面に記載された他の株主の情報が濫用されることを防ぐため、閲覧請求では請求理由を明らかにしなければならず、それが株主権の行使に関する調査以外の目的である場合などであれば、会社は閲覧請求を拒否できるとしました。この改正も、上場会社・非上場会社を問わず適用されます。
取締役等に関するルール
改正(4) 取締役の個別報酬決定方針の定め方
大多数の会社で、個別取締役の具体的な報酬額は、取締役会や代表取締役が決めてきました。しかし、それでは適正な報酬か否かが株主にわかりにくいといえます。そこで改正法は、上場会社では、取締役会において、定款や株主総会決議で取締役の個人別報酬が具体的に定められていない場合は、その「決定方針」を定めなければならないとしました。
改正(5) 株式報酬
取締役が会社の株式を報酬として与えられるならば、業績を向上させる等のインセンティヴ(動機)になり得ます。改正法では、上場会社が取締役に報酬として株式を交付する場合は、その株式の対価たる金銭を取締役から会社に支払ってもらう必要はないとし、取締役の職務執行の対価として株式を与えることができることを明確にしました。
改正(6) 補償契約
取締役らが株主代表訴訟等で責任を問われたときに生じる弁護士費用等を会社が当該取締役らに支払う契約(補償契約)を締結することは、役員の人材確保や、役員が思い切って職務を執行することを容易にします。しかし、そのような補償契約は、会社と取締役の利益相反取引の面もあるため、適法かどうかはっきりしていませんでした。そこで、改正法は、補償契約の手続き、補償範囲等にルールを設け、それらによれば利益相反取引には該当しないことを明確にしました。この改正も、上場会社・非上場会社を問わず適用されます。
改正(7) 役員等賠償責任保険契約(D&O保険契約)
役員等賠償責任保険契約は、会社が掛け金を負担し、取締役ら役員が職務執行に関し損害賠償責任を負う場合に、その損害賠償金を保険金で補填する保険契約です。いわゆるD&O保険(Directors & Officers保険)契約等がこれに該当します。すでにこの保険は、役員の人材確保や職務執行の萎縮防止に役立つため上場会社を中心に広く普及しています。しかし、この保険契約も会社と役員の利益相反に当たる面を持ち、適法かどうかはっきりしていませんでした。
そこで改正法は、取締役会決議等によって役員等賠償責任保険契約の内容が決められた場合は、利益相反契約に当たらないことを明確にしました。この改正も、上場会社、非上場会社を問わず適用があります。
改正(8) 取締役ら役員への責任追及訴訟での和解
株主代表訴訟に会社が参加した場合や、会社自身が取締役ら役員に損害賠償を求める訴訟を起こした場合、会社と取締役等が和解する場合があります。しかし、その和解においては、会社が取締役らに遠慮して不当に取締役らに有利な和解をするリスクがあります。
それを防ぐため、改正法は、和解するには各監査役(個別の監査役全員)の同意を得なければならないとしました(監査等委員会設置会社では各監査等委員。指名委員会等設置会社では各監査委員)。この改正も、上場会社のみならず、監査役を設置している会社(監査役の監査範囲を会計に限定している会社を除く)であれば、非上場会社にも適用があります。
改正(9) 社外取締役への業務執行委託
たとえば、親会社と子会社が取引をする場合、子会社取締役が親会社の利益を図って子会社に不利な取引をする可能性があります。親会社の業務執行のライン上にいることも多い子会社取締役と子会社自身との間で利益相反が生じているのです。
そこで改正法は、会社と取締役が利益相反状況にあるときなどは、取締役会の決議で、社外取締役に当該業務を委託できるとしました。この改正も、上場会社・非上場会社を問わず対象となります。
改正(10) 上場会社等に1人以上の社外取締役設置義務化
すでに、ほとんどすべての上場会社には社外取締役が存在しています。しかし、改正法によって、監査役会設置会社である上場会社等(有価証券報告書提出義務のある会社)には、社外取締役を1人以上置くことが義務になりました。社外取締役が必ず存在することを海外機関投資家に認識させることなどが目的です。
その他のルール
改正(11) 株式交付による子会社化
A社が、A社の株式を対価にB社の株式を取得して子会社化する場合、その手段として株式交換手続きなどがあります。しかし、株式交換ではB社の株式を100%取得しなければならないなどの制約があります。
そこで改正法は、より柔軟に他社を子会社化できる手続きを新設しました。それが「株式交付」です。これによって、たとえばA社がB社の株式51%を取得してA社の子会社にしようとするときも、A社は、自社の株式を対価としてB社の株式を取得できるようになりました。この改正も、上場会社・非上場会社を問わず適用があります。
改正(12) 社債管理補助者
会社が社債を発行する場合、社債の金額が1億円以上である場合、50名未満の者に発行する場合という例外を除いて、銀行や信託会社を社債管理者としなければなりません。しかし、これまで実際には、あえて上記例外に該当する形で発行して社債管理者を置かないケースが多かったのです。
これでは個々の社債権者の手続的保護等に欠けるため、改正法は、上記例外に当たる場合でも、「社債管理補助者」を置くことができる制度を新設しました。この改正も、上場会社・非上場会社を問わず適用があります。
改正(13) 成年被後見人等の取締役等欠格事由からの削除
判断能力に問題がある人の財産管理のため、家庭裁判所が後見人や保佐人をつける制度があります(以下「成年後見制度等」)。他方、高齢化社会の中で取締役等のまま判断能力が衰えていく場合も多く、そのような人も成年後見制度等を利用しやすくする必要があります。
改正法は、取締役及び監査役の欠格事由から、成年被後見人(後見人がついている人)、被保佐人(保佐人がついている人)を削除しました。この改正も上場会社、非上場会社を問わず適用があります。
改正(14) 支店所在地における登記義務廃止
改正法は、会社の支店所在地における登記義務をなくしました。支店所在地で行っていた商号、本店・支店の所在場所の登記をする必要はなくなります。インターネットを利用した登記情報取得が容易になるなど実際上の必要性が乏しいためです。この改正も、上場会社・非上場会社を問わず適用があります。
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企業活動を支える法律である会社法は、経済のグローバル化、社会情勢の変化などに応じ、今後も見直しが繰り返される運命にあります。ビジネスパーソンとしては、日々のニュースや改正等の情報に常に関心を払いたいものです。
昭和34年⼤分県⼤分市⽣まれ。東京⼤学法学部卒。裁判官(名古屋地⽅裁判所)を経て、昭和63年4⽉弁護⼠となる(東京弁護⼠会所属)。平成2年4⽉中島成法律事務所を東京都港区元⾚坂に設⽴、事務所名を中島成総合法律事務所に改め、平成8年11⽉に東京都中央区銀座に移転。⽇本商⼯会議所・東京商⼯会議所「会社法制の⾒直しに関する検討準備会」委員、東京商⼯会議所「経済法規・CSR委員会」委員、「経営安定特別相談室」商⼯調停⼠、「中⼩企業⾦融委員会」ワーキンググループアドバイザー等を務める。また、全国地⽅銀⾏協会研修所などでの講演も多数⾏う。『図解でわかる会社法』『図解でわかる商法・⼩切⼿法』『⼊⾨の法律商法のしくみ』『これならわかる改正⺠法と不動産賃貸業』(以上、当社)、『⺠事再⽣法の解説』『個⼈情報保護法の解説』(以上、ネットスクール)など著書多数。