「提案書がなかなか通らない」「報告書がわかりにくいと言われる」「資料作成に時間がかかる」……こんな悩みを抱えている人は多いもの。ウェブ会議やオンライン商談が増えても、ビジネスで成果を上げるには「文章力」が必要です。では、どうすればよいのでしょうか。部下の文章を長年添削しつづけた経験を元に「伝わる」「説得力のある」文章を書くノウハウを確立した弁護士・奈良正哉さんにポイントを伺いました。
※本稿は『ビジネス文章力の基本』をもとに一部抜粋・再編集しています。
デジタル時代こそ「文章力」が必要
ビジネスは、文書を書くことで回っていきます。頭の中にあるアイデアを発表する、問題点を指摘する、あるいは改善の提案をするには、まず、文書にして周囲に伝えなければなりません。その内容の良し悪しによって、提案の中身に対する評価が違ってきます。提案者の文章力によって、仕事の評価も大きく違ってくるのです。
営業も同じです。たとえば、顧客先で資料を手にプレゼンをするとき、顧客の知りたいことではなく、自社にとって都合のいいことばかりをアピールした資料を作ったのでは、顧客はかえって不信感を抱きます。
それでも直接顧客に会えれば、熱意や身ぶり手ぶりで伝えられる部分もあるでしょう。しかし、オンラインでは、微妙なニュアンスや雰囲気を伝えることは、なかなか困難です。顧客に渡す文書の良し悪しが、決定的にプレゼンの出来を左右します。
デジタル時代のいまだからこそ、会議や商談における文書や文章が果たす役目は大きくなっています。伝えるべきことをまっすぐに伝える文章力の差が、仕事の成果に直結するといっても過言ではありません。
よいビジネス文章ってどういうもの?
では、どうすれば「伝わる」「説得力のある」⽂章になるのでしょうか。
求められるのは、語彙(ごい)の多さや気の利いた表現ではありません。小説やブログを書くのとは違い、ビジネスではむしろ、それらが邪魔になることすらあります。
よいビジネス文章は、伝えるべきことを明確に、過不足なく、説得力のある言葉で書かれているものです。そこで、次の3つのキーワードを意識してみましょう。 これだけで、文章の仕上がりが格段によくなります。
「ビジネス文章力」を高める3つのキーワード
1「短単」=短く、単純に書く→すぐ読める
2「形式」=形式にはめる→悩ませない
3「予測」読み手に予測させる→納得させる
キーワード1「短単」=短く、単純に書く
「短単(たんたん)」という日本語はありません。筆者の造語です。文章全体、そしてその構成要素である1文は短いこと、単純であるべき、という意味です。大切なのは、読みやすく、誤解を生まないということ。ビジネス文章では、短く単純な1文、短く単純な文章を心がけてください。
その理由は、読み手の立ち場になって想像してみれば、すぐにわかります。得られる情報が同じなら、長い文章を読ませられるより、短い文章のほうがいいに決まっているからです。単純な文章なら容易に理解できますし、誤解も生まれにくい。それがすなわち、よいビジネス文章ということです。
キーワード2「形式」=形式にはめる 悩ませない
ビジネス文書に、ミステリー小説のような構成(最後まで結論がわからない)や奇をてらったレイアウトは不要です。多彩な表現も必要ありません。
日本語にはもともと「形式」があります。たとえば、段落を作るとか、段落の頭は1文字分下げるとか、小学校で習う作文の基本もその1つです。こうした形式を愚直に守ることで、短時間で一定水準の文書が書けるようになります。
読み手にとって理解しやすい文章になるだけでなく、一定の枠にはめられることで、「何から書こうか」「どういうレイアウトにしようか」といったことに思い悩む必要もありません。余計なことを書いたり、逆に必要なことを書き漏らしたりすることも防げます。
キーワード2「予測」=読み手に予測させる 納得させる
議案名、標題(タイトル)、ナンバリング(通し番号)、接続語などを効果的に使って、読み手に「何が書かれているか」を予測するヒントを与えます。大事なのは、読み手の予測を裏切らないことです。予測どおりの内容であれば、「予測→予測の確認」というプロセスを経て、読み手の理解が深まります。
たとえば、「したがって」という接続語があれば、次に結論がくる、ということが予測できます。それと同時に、次にくる事実が重要である、ということも予測できます。読み手の理解が深まるよう工夫することは、ビジネス文書において、とても重要です。
このほかにも、ビジネス文章力を高めるテクニックはいろいろあります。拙著
『ビジネス文章力の基本』では、「書いたら必ず削る」「⾔い訳を書かない(書かない勇気をもつ)」「原則と例外を1つの⽂に書かない 」「“⾮常に・極めて”を使わない(程度は数字で⽰す)」など、これまでの経験を元に厳選した77のルールをご紹介しています。興味をもたれた方は、ぜひお読みになってみてください。
慶應義塾大学経済学部卒。みずほ信託銀行総合リスク管理部長、運用企画部長を務めた後、執行役員を経て同社常勤監査役になる。銀行勤めをする傍ら40歳の時に司法試験挑戦を思い立ち、45歳で合格。2014年からみずほ不動産販売専務取締役。退任後に司法修習を受け、2017年から弁護士として活動。銀行の管理職時代に、自らの経験を元に「ビジネス文章を書くノウハウ」をまとめ、延べ1200人以上の社員にセミナーを行った。鳥飼総合法律事務所所属。