(イラスト by うさっと/イラストAC)
デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを変革し、業績の向上につなげる「DX」への期待は高まるばかりですが、プロジェクトがうまくいかない例も少なくないようです。失敗する企業が犯してしまいがちな「7つの間違い」とは?
※本稿は船井総合研究所デジタルイノベーションラボ『担当になったら知っておきたい 中堅・中小企業のための「DX」実践講座』の一部を抜粋・再編集したものです。
間違い1:いきなりデジタルツールを導入してしまう
世の中、これだけDXだ、デジタルだと叫ばれていると、「ウチの会社も何かデジタル化していかないと時代に取り残される……」という一種の強迫観念に取りつかれてしまいます。
そうなると、すぐに「どのようなデジタルツールを導入すればいいのか?」という話になりがちですが、
あまり深く考えずデジタルツールだけを導入しても、ほとんどのケースがうまくいきません。なぜでしょうか。
まず、デジタルツールに過度な期待を持っているからです。デジタルツールさえ導入すれば、様々な課題を解決し、生産性が上がると勝手に期待していませんか。しかし、正しい使い方がわかっていないとしたら、成果につなげるのはそう簡単なことではありません。
また、デジタルツールの導入自体が目的化してしまっているケースもうまくいきません。デジタルツールの導入はあくまでも手段です。そのことを忘れてはいけません。
要するに、あまり深く考えずにデジタル化を進めてもうまくいかないのです。デジタル化を成功させようと思ったら、
成功のためのストーリーとその設計をたっぷり考える時間が必要です。
間違い2:掛け声だけで、目的があいまいなまま進めてしまう
何事もそうですが、目的があいまいなままで物事がうまくいくことはありません。経営トップが「ウチの会社もDXをやるから、何か考えてくれ」と言って現場任せにしてしまうのは最悪のケースです。
何のためにDXをやるのか? この点が抜けているとまわりは動くことができません。
DXの目的は会社によっても違いますし、様々だと思います。一般的には次のような目的があります。
【業務の効率化】
• 業務の自動化・省人化
• 売上向上
• コスト削減
• 利益向上
• 生産性向上
• 経営のスピードアップ
• 顧客体験価値の向上
• 新しい価値の創造
• 新しいビジネスモデルの創造
DXを推進していくためには、DXの本質やDXと単なるデジタル化の違いも理解しておく必要があります。
まずは目的を明確にした上で全社に号令をかけないと、失敗につながります。
間違い3:投資回収をシミュレーションしていない
DXやデジタル化のための投資は、あくまでも「投資」ですから、確実に回収するためにシミュレーションをしておきたいところです。
投資回収の考え方は、ROI(Return On Investment)と呼ばれる、投資した分でどれだけ利益を上げたかを示す指標で表せます。ROIの数値が高いほど上手な投資ができていると言えます。
しかし、多くの場合、投資回収のシミュレーションを行わないまま、デジタルツールの導入を進めてしまいます。そうなるとどういうことが起こるかというと、投資の発想がないのでとにかくコストを抑えようとします。
投資した額よりも多くの利益を生み出せるのであればコストを抑える必要はありません。この発想が持てないと、思い切った投資ができず、他社にデジタル化投資で差をつけられ、その結果競争に負けてしまいます。
一方で、投資回収が見込めないようであれば、投資に踏み切るかは検討する必要があります。ただし、デジタル化投資の中には、回収が見込めなくても業務を効率化する上で欠かせないものもあります。いわゆる攻めの投資と守りの投資を分けて考えていく必要があります。
間違い4:ITベンダーの言いなりになってしまう
DXを進める際にはITベンダーとの付き合いが必須ですが、注意が必要です。
ITベンダーとユーザー(導入企業の担当者)では、
圧倒的な情報格差があるため、ITベンダーから提供される情報が正しいのか、間違っているのかユーザーには判断ができません。そのために、ITベンダーの言いなりになってしまうケースが非常に多いのが実情です。
特に、IT業界は専門用語が多いため、ITベンダーが話している単語の意味がわかりません。単語の意味を聞いたところでわからないことも多いのですが……。そもそも、
相手のレベルに合わせて、わかりやすく説明してくれるのが良いITベンダーです。専門用語でまくしたてるようなITベンダーは良いITベンダーとは言えません。
ITベンダーを選ぶ正しい目を持っていないと、DXはうまくいきません。
自分なりに専門用語を理解する努力をし、複数のITベンダーとのやり取りをする中で、ITベンダーの良し悪しを判断する目を養っていくことです。
間違い5:最新かつ高機能のデジタルツールを導入しようとする
IT業界に詳しくない人は、最新で高機能なものがよいと思いがちですし、大は小を兼ねるという感覚で、機能が豊富なものを選んでおけば、将来的にもそのほうがいいだろうと思ってしまいます。
ITリテラシーの高い大企業であれば問題ないのでしょうが、
中堅・中小企業の場合は、最新で高機能なデジタルツールが本当に自社のレベルに合っているのか確認する必要があります。
自社で使いこなすことができない場合は、まさに宝の持ち腐れ状態になってしまい、最新のデジタルツールを導入したはいいが、まったく活用されていないという事態に陥ることは避けたいです。
一方で注意しておきたいのは、
ITベンダーは、最新で高機能なデジタルツールを提案してくることが多いということです。良いITベンダーは、導入企業のITリテラシーに合った提案をしますので、そのあたりはしっかりと見極めたいところです。
間違い6:AIで何でもできると考えている
AIの世界では、
「汎用型AI」と「特化型AI」という分類があります。
汎用型AIは、特定の課題だけに対応するのではなく、人間と同じように様々な状況に対応し課題を解決するAIを指します。しかし、現段階のAIではここまでの機能は実現していません。
特化型AIは、特定された分野の課題に特化して、自ら学習し課題を解決するAIを指します。具体的には、画像認識や音声認識、需要予測や在庫の最適化などの技術を持つAIです。この特化型AIに関しては、中堅・中小企業においても実績ができつつあり、これから取り組むべきAIはこちらの特化型AIです。
中堅・中小企業にはAIはまだ早いと思っているとしたら大間違いです。
画像認識AIを活用した製品品質の改善、客数予測AIを活用した食品廃棄ロスの削減、在庫管理AIを活用した受発注の最適化などの事例がどんどん出てきています。中堅・中小企業のAI活用はもう始まっているのです。
間違い7:効果検証のための指標を設定していない
効果検証というのは非常に重要なプロセスです。例えば、300万円かけてホームページを作成しWeb広告を出した場合、どれだけ問い合わせにつながったか、売上につながったか、その効果を検証していると思います。デジタルツールやシステムも同様で、導入の効果を検証していく必要があります。
効果を検証するためには、KPI(業績にインパクトを与える重要な指標)の設定が重要になります。KPIには、業績に直結する経営指標もあれば、システムを有効活用するための指標もあります。例えば、以下のようなものです。
【経営指標】
• 売上・粗利
• 粗利率
• 受注率
• リピート率
• LTV(生涯顧客価値)
【システム活用指標】
• ログイン率
• 入力率
• 項目作成数
• 活用スコア
デジタルツールやシステムを導入したことで、これらの指標がどれだけ改善したのかを評価し続けることが重要です。また、単純に導入前と導入後を比較するだけでなく、KPIのそれぞれに導入後の目標値を設定しておき、その目標と実績とのズレを検証していく作業も非常に有効です。
中小・中堅企業を対象に専門コンサルタントを擁する日本最大級の経営コンサルティング会社。業種・テーマ別に「月次支援」「経営研究会」を両輪で実施する独自の支援スタイルをとり、「成長実行支援」「人材開発支援」「企業価値向上支援」「DX(デジタルトランスフォーメーション)支援」を通じて、社会的価値の高い「グレートカンパニー」を多く創造することをミッションとする。その現場に密着し、経営者に寄り添った実践的コンサルティング活動は様々な業種・業界経営者から高い評価を得ている。
デジタルイノベーションラボは、特にテクノロジーを活用して企業に変化をもたらすDXを担当。DXジャーニーマップを活用したコンサルティングに定評がある。DX自動化システム、データドリブン経営を推進。