中小企業やスタートアップ企業では、たった1人で広報活動を担う「ひとり広報」が増えています。しかし、SNSやオウンドメディアなど多岐に渡る広報手段を1人でカバーするのは並大抵のことではありません。
そこで、多くの「ひとり広報」を支援してきた井上千絵さんの新著
『ひとり広報の教科書』から、社内の協力者を巻き込んだ「広報チーム」をつくる方法をご紹介します。
コミュニケーションの経路は多様化している
あなたがひとり広報であってもなくても、広報活動は広報担当者だけで担うものではありません。特定の1人だけで企業の広報活動を担うのは、会社にとってリスクです。広報の属人性が高くなり、その人がいなくなったときにそれまでの活動の蓄積がなくなってしまうからです。
また、1人ですべての発信活動を完璧にできる人もいないため、特定の社員が広報活動のすべてを担うのは無理があります。
誰しも得意な部分と苦手な部分がありますから、苦手な部分は他の社員の力を借りたほうが賢明です。広報担当者がいるにしても、広報活動は全社一体となって進めていくことが必要なのです。
その必要性は近年、ますます高まっています。なぜなら、企業と社会をつなぐコミュニケーションの経路が多様化しているためです。
かつて、広報活動の手段はプレスリリースが主でした。企業のプレスリリースをもとにメディアが取材・発信活動を行い、消費者をはじめとするステークホルダーの主な情報源はメディアから得るものでした。
この数年で、その環境は変わりました。企業の広報手段はSNS、コーポレートサイト、オウンドメディアやブログなど多岐にわたります。企業広報は発信のプラットフォームをいくつも整えて、メディア頼み一辺倒ではなく、自ら発信もしていくことが求められています。
■多様化するコミュニケーション
広報活動では「5つの発信力」が求められる
広報手段が多様化した結果、広報活動では「5つの発信力」を総合的に発揮することが求められるようになっています。5つの発信力とは、以下です。
1.ライティング力(書く力)
2.SNS力
3.撮影力
4.デザイン力
5.メディア力
ただ、この5つをまんべんなく発揮できる広報人材はごくまれです。誰しも得意分野と不得意分野があり、社内の人や外注先の人と協力しながら発信するのが現実的です。
「5つの発信力診断シート」で広報チームをつくる
広報担当者であるあなたは、5つの発信力を自分1人でなんとかしようとせず、社内に広報チームをつくることを考えましょう。自分の苦手分野が得意な社員、社内でハブとなってくれる社員や部署と連携することで、広報活動は持続性が高くなり、効果も出やすくなります。
広報チームをつくるときにおすすめしているのが「
5つの発信力診断シート」です。社内で広報の仕事に興味を持ってくれている人、協力的な人、連携できそうな部署のメンバーにこのシートを渡して、記入してもらいましょう。すると、それぞれの社員の得意分野がわかります。これをもとに、自分の苦手分野をカバーしてくれる社員を広報活動の協力者としてお願いしてみましょう。
■5つの発信力診断シート
あなたが「ライティングは苦にならないけれど撮影やデザインができない」という場合は、撮影力やデザイン力の高い社員にチームメンバーになってもらいます。頼まれた社員も、自分が趣味でしていたことが会社でも役立つとわかると積極的に協力してくれるものです。私自身、文章を書いたり撮影をしたりするのは得意ですが、デザイン力が弱いという自覚があり、社内の得意な人にいつも力になってもらっています。
「5つの発信力診断シート」は広報業務の棚卸しにもつながります。自分がやるべき業務、他部署の人にお願いできる業務を明確にするよい機会になります。
広報活動に関わってくれるメンバーとは月1回、月次ミーティングを開きましょう。日頃から協力してくれるメンバー以外にも、各部署で広報とのハブとなってくれそうなキーパーソンとも密にコミュニケーションをとるようにしておくのもおすすめです。30分オンラインで話す、月1回ランチに行って話すなど、お互いに負担の少ない形を探してみましょう。
社内に広報の話をできる人が増えれば増えるほど、情報収集や連携、発信活動は効率的になり、業務の負担が軽減されます。
「広報チーム」を作るために、社内コミュニケーションを密にする方法を紹介しました。たとえ「ひとり広報」であったとしても、全社一体となって広報活動に取り組みたいものです。
本書には、「5つの発信力診断シート」以外にも、多数のオリジナルテンプレートが掲載されており、ダウンロードして使用することもできます。知識や引継ぎがなくても、悩まず広報活動ができるようになる1冊です。
株式会社ハッシン会議 代表取締役/PRコンサルタント。元・名古屋テレビ放送株式会社(メ~テレ)報道記者。2010~2012年に局を代表してテレビ朝日「報道ステーション」へディレクター出向。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士。ベンチャー・スタートアップ企業を中心に広報PR領域の伴走をする、「ハッシン会議」を設立。テレビ局のアウトドアメディア「ハピキャン」の立ち上げや、WEBメディア「Molecule(マレキュール)」の事業プロデュースも手がける。